フランスの企業が製造した女性向け豊胸用のシリコーンバッグに安全性の問題があり、破裂する恐れがあると仏政府が警告している。フランスでは約3万人がこのシリコーン豊胸材を使用、保健省が手術を受けた人に、早期に除去するよう促している。
バッグは日本に輸出された可能性もあり、厚生労働省も注視している。
乳房と腋窩部分の超音波検査を6か月ごとに受診
破裂の危険性を指摘されたのは、仏企業PIPの製造品だ。2011年12月23日、仏保健省は、豊胸手術に用いられるPIP製シリコーンバッグに関する専門家の調査結果を発表し、女性の胸に埋め込まれた場合に発がん率を高めるリスクは確認されなかったとした。ところが、破裂によりジェル状のシリコーンが漏れて炎症を引き起こす恐れを指摘、その場合はバッグを除去するのが難しくなると報告した。
そのうえで保健省は、豊胸手術を受けた人に向けて、PIP製バッグを使用している場合はすぐ外科医と相談し、「予防的措置」としてバッグを摘出するよう助言している。摘出したくない場合は、乳房と腋窩部分の超音波検査を6か月ごとに受診しなければならないと通達した。
PIPのシリコーンバッグは「いわくつき」だ。仏医療製品保健衛生安全局によると、2009年末までに他社製品より多くの破裂が報告される一方、医療用の品質を満たしていないことが当局の検査で明らかになっている。そのため2010年3月29日には当局がバッグ回収を指示した。4月にはバッグの製造が禁止され、PIPも経営破たんに追い込まれた。しかし、これで話は終わらない。2011年11月25日、PIP製バッグで豊胸手術を受けた女性が、胸部の「未分化大細胞型リンパ腫」で死亡したのだ。
PIP製バッグは、医療用ではなく安価な工業用シリコーンを使ってつくられたという。創業者のジャンクロード・マス氏は現在、国際刑事警察機構(ICPO)から国際指名手配を受けている。
フランスや英国を中心に欧州では、大問題に発展した。豊胸だけでなく、乳がんで乳房を切除せざるをえなかった患者にシリコーンバッグを使って乳房再建術を施す場合もある。フランスだけでPIP製バッグを使用している女性は3万人に達する。またロイター通信によると、豊胸手術は中南米諸国で人気が高く、年間20~30万件の手術が行われているという。
日本へ輸出されているとの報道も
日本への影響も懸念される。厚生労働省医薬食品局は12月27日、仏保健省の発表内容を踏まえて、日本美容整形学会をはじめ関係学会に向けて情報提供を行ったことを明らかにした。
厚労省によると、PIP製シリコーンバックは日本では承認されていない。しかし日本へ輸出されているとの報道もある。美容関係の医師が個人でフランスから輸入しているケースも、ありえない話ではない。
豊胸手術にはシリコーンバッグのほかにも生理食塩水バッグを挿入する場合や、自身の腹部などの脂肪を注入する方法もある。美容外科のウェブサイトを見ると、シリコーンバッグを使う場合はわきの下を数センチ切開し、そこから患者の体格に合わせて乳腺や大胸筋、筋膜の下にバックを入れるのが一般的なようだ。手術費は80~100万円程度となっているところが多い。豊胸手術を受けた人の数の国内統計は見当たらないが、米国の場合、1998~2009年で400万人と相当数に上る。
今回のPIPのケースは、低品質の素材を使った製品化という悪質な手口で、通常の医療用シリコーンバッグが問題を引き起こしたわけではない。それでもPIPが、世界中で豊胸手術への不安をあおってしまったことは大きな「罪」となった。