厚生労働省は2011年12月14日、厚労相の諮問機関の労働政策審議会に対して、65歳までは希望者全員を再雇用するように企業に義務づける高齢者対策の素案を示した。年金支給年齢が段階的に引き上げられることを受けて、無収入の人が出るのを防ぐ狙いだ。
その一方で、すでに国家公務員については定年を65歳まで引き上げることが提案されており、国会でも目立った議論に発展している訳ではない。
13年度から「民間65歳まで再雇用」目指す
13年度以降、厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳へ段階的に引き上げられる。これに対応するため、06年に改正された高年齢者雇用安定法で、企業に対して(1)継続雇用制度の導入(2)定年年齢を65歳に引き上げる(3)定年制を廃止する、のいずれかを行うように義務づけている。大半の企業は(1)を採用したが、労使の合意で再雇用の基準を設定することができ、希望者全員が再雇用される訳ではない。このため、厚労省の調査では、希望者全員が65歳まで働ける企業は11年6月時点で全体の47.9%にとどまっている。今回の措置は、この現状の改善を図るためのもので、厚労省は12年の通常国会での法改正を経て13年度からの実施を目指す。
この対策には「若者の雇用が減る」との批判も根強い。だが、公務員については、さらに手厚い待遇が用意される見通しで、議論を呼びそうだ。
人事院は11年9月30日、11年度の国家公務員の平均年収を0.23%引き下げる勧告を内閣と国会に提出した。実は、人事院は勧告と同時に、定年延長に関する意見も提出している。この意見では、現時点では60歳の定年を、公的年金の支給開始年齢引き上げに合わせて13年度から3年に1歳ずつ引き上げ、25年度までに65歳にするように求めている。
民間の「再雇用」と大きな差
一度退職した人を再雇用(再任用)する方式については
「今後、再任用希望者の大幅な増加が見込まれ、(中略)希望者全員を65歳まで雇用する仕組みとして十分機能すること困難」
だとして否定的。あくまでも定年の延長を求めているという点が、前出の民間企業に対する厚労省の案とは違うところだ。さらに、50歳を超えた職員の年間給与を60歳時点の70%に設定することも求めている。その根拠として、人事院は厚労省の統計をもとに試算したところ、
「60歳代前半層の民間企業従業員(製造業(管理・事務・技術))の年間所得(給与、在宅老齢年金、高年齢雇用継続基本給付金)が60歳前の年間給与の約70%」
などと説明している。
だが、労働政策研究・研修機構が08年2月、60歳定年企業で正社員だった人を対象に行った調査によると、継続雇用制度を活用した人の年収は正社員時代と比べて36.5%、他社に転職した人の年収は48.2%減少している。人事院の試算は、民間の実感とは隔たりがあるようだ。
10年秋の臨時国会では、野田内閣が国家公務員給与を平均7.8%削減する臨時特例法案を提出しており、人事院勧告との兼ね合いについて多く議論された。結局特例法案は野党の協力が得られず、この臨時国会では成立を断念したが、定年延長の妥当性については議論されないままだ。今後、「官民格差」のひとつとして批判が出る可能性もありそうだ。