職業柄、いろいろな政治家の勉強会で話をすることが多い。もちろん、自論を述べてくれといわれて話をするので、相手によって意見を変えることはない。
鳩山由紀夫元首相に頼まれて、2011年12月8日、民主党の「政権公約を実現する会」で話した。話の内容は簡単だ。「民主党はマニフェストに書いた話を実行しないで、マニフェストに書かれていないことをやっている」と言った。
マニフェスト「歳入庁」はどこへ?
マニフェストに書かれていないというのは、社会保障のための消費税増税化のことで、マニフェストに書いた話というのは歳入庁のことだ。
社会保障論からみて、消費税の社会保障目的税化はとんでもない愚策だ。社会保障は保険方式で給付と負担を見えやすくしている。そこに目的税を投入するのは、過剰な社会保障需要や税金目当ての搾取を生み、ますます社会保障費を増大させる。
租税論からみてもおかしい。消費税は安定財源なので地方の一般財源になっている国が多い。消費税を社会保障目的税とする国は寡聞にしてしらない。しかも、今の消費税増税構想では、消費税を国税に固定化させるので、これからの地方分権にあたり、地方へ税源移譲させるものがなくなり、地方分権ができなくなる。
今の野田政権の消費税増税は、財務省と厚労省の戦略的互恵関係の産物としか思えない。財務省は消費税増税、厚労省は社会保障予算の獲得で、国民不在だ。政治のリーダーシップなしで、各省が縦割りで勝手気ままに制度をいじくりまわしている。
世界の流れは、社会保障と税をシームレスに統一的に扱っている。具体的には、社会保障の給付と一体的に扱い、一定所得以下の人には給付、それ以上の人には税負担で、それぞれが整合的に行われている。その実行のためには、旧社保庁(現・日本年金機構)と国税庁との間に縦割り思想はない。というわけで、世界では、旧社保庁にあたる組織と国税庁は合体して同一組織であるのが常識だ。
「分かっている」のに実行できない民主党
ところが、今の政権は、社会保障と税の一体改革というものの、中身は各省縦割りで、社会保障を人質にして消費税を増税するための方便になっている。
歳入庁を作ると、税・保険料の不公平がなくなる。日本年金機構と国税庁の把握している法人数の差80万件による保険料の徴収漏れ(消えた保険料)や国民番号制度がないことによる税徴収の不公平がある。さらに、消費税のインボイス(仕入れ時消費税額の記載書類)がないことによって消費税の漏れもある。
消えた保険料で10兆円、国民番号制度なしで5兆円、消費税インボイスなしで3兆円、これらで20兆円程度にも達する可能性がある。歳入庁(それに伴い国民番号制の導入)と消費税インボイスを先進国でやっていないのは日本だけだ。
そもそも、増税という税率をあげる前に、不公平の是正が先決だ。税の不公平は穴のあいたバケツだ。穴のあいたままでいくらバケツをすくっても入る水は少ない。労多くして、不公平だけを助長する。
こういう話をしたら、参加していた民主党議員から、その話は政権交代前にしていたという。その通りだ。それができていないから、話したわけだ。
イギリスでは、歳入庁を1999年に作っている。検討に1年間、実施に1年間と2年程度でできるのに、なぜ日本でできないのか不思議でならない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。