もめ続けていたNHKの受信料値下げが決着した。最高意思決定機関の経営委員会(委員長・数土文夫JFEホールディングス相談役)は2011年10月25日、2012年度からの3カ年の経営計画を決めたが、その中で、最大の焦点だった受信料を2012年10月から最大で月120円下げることを盛り込んだ。
値下げによる減収は3年間で1162億円になり、受信料収入全体の7%に相当する。NHKの松本会長は「重い決断」と説明するが、各紙は社説などで決定過程の不透明さなどを批判している。
12年度から「10%還元」を打ち出していた
受信料の引き下げは、ラジオ受信料を廃止した1968年以来で、実質的に初めての値下げ。現在の受信料(地上波だけの契約で月1345円)が、口座振替やクレジットカード払いの契約者で月120円(約9%)、コンビニエンスストアなどで振り込む契約者は同70円(約5%)下げる。
2008年策定の現行の経営計画で「2012年度から受信料収入の10%還元」を打ち出していた。NHKは今回の新経営計画で値下げ7%に加え、東日本大震災の影響などで受信料を全額免除する世帯の拡大への対応に402億円(2.4%)、震災後の緊急の設備投資に106億円(0.6%)を充てるとして、合計で10%還元を実現したと説明している。
だが、決定に至る最終盤の動きでは、執行部が経営委に対して、10円刻みで値下げ額を上積みしていく「バナナの叩き売り」のような対応が目に付いた。9月13日に70円(約5%=口座振替、クレジット払い)下げる案を経営委に提示。大震災、景気低迷など「(2008年から)検討すべき前提が増えた」(松本正之会長)という執行部判断だが、経営委は「10%還元は受信料の10%値下げ」という福地茂雄前会長の国会答弁などを重視し、つき返した。執行部は10月11日には下げ幅を110円に上積みする2次案を再提示。もう一段の努力を求められ、最終的に下げ幅をもう10円拡大し、ようやく決着した。
公共放送の将来像どう描くか
値下げによる受信料収入の落ち込みで、2013年度の事業収支は47億円の赤字を見込む。ただ、契約件数増や人員削減を図り、2014年度は10億円の黒字に転じるとしている。
今回の値下げ論議には、マスコミも批判的だ。26日朝刊やその後の社説なども含め、「数字の攻防に終始」(毎日)、「視聴者不在」(産経)、「公共放送 新時代の姿描けず」(朝日)、「成長戦略、具体性乏しく」(日経)など、手厳しい見出しが躍った。
実際、当初の案にあった国際放送への投資、後世のための震災アーカイブスの構築や災害対策の施設整備などは値下げ論議の中で吹き飛んだ。NHKオンデマンドの2013年度までの黒字化方針は盛り込んだが、民放が猛反発するインターネットへの同時配信などネット時代への対応といった成長戦略は「具体性に欠ける」(日経)。また、経営委の検討過程(5回の会合)が「支障が出る」と、一切明らかにされなかったことを問題視する指摘(毎日、産経など)もある。
決定後の25日の記者会見で、受信料引き下げを「値切った」松本会長は「経営リスクを勘案すると極めて重い決断」と、渋い表情ながら努力をアピール。一方、値下げをと迫り続けた数土経営委員長は、10%値下げの公約を果たせなかったことから、「トップが代わったからといって許されるものではない。国民、視聴者に申し訳ない気持ちはある」と陳謝するという奇妙な光景になった。