「超スゲェ楽になれる方法を知りたいか? 誰でも幸せに生きる方法のヒントだ もっと力を抜いて楽になるんだ。苦しみも辛さも全てはいい加減な幻さ、安心しろよ」
まるでラップのようなこの文章、実は有名な仏教の経典「般若心経」を意訳したものだ。動画サイト「ニコニコ動画」に投稿されたこの「現代語訳」に、ネットで反響が広がっている。
「揺らぐ心にこだわっちゃダメさ」
この「現代語訳」は2010年9月、ニコニコ動画に投稿された動画「初音ミクアレンジ『般若心経ロック』」へのコメントとして、その後まもなく書き込まれた。この動画は「般若心経」の読経をロック調にアレンジしたもので、「歌詞」自体は「般若心経」の観自在大菩薩……で始まる有名な文をそのまま使っている。
そこに、ある匿名ユーザーがちょうど字幕のような形で、新たに「現代語訳」を付けた。原文を相当大胆に変えているが、原意を留めるように工夫した様子が伺える。どうやらこのユーザーが自ら考えた、オリジナルの訳らしい。
「この世は空しいモンだ、痛みも悲しみも最初から空っぽなのさ。この世は変わり行くモンだ。苦を楽に変える事だって出来る」
「揺らぐ心にこだわっちゃダメさ。それが『無』ってやつさ。生きてりゃ色々あるさ。辛いモノを見ないようにするのは難しい。でも、そんなもんその場に置いていけよ」
この若者言葉で語られる「般若心経」は、たちまち多くのユーザーの心をつかんだ。ニコニコ動画では楽曲自体へのコメントをしのぎかねない勢いで、「かっこいい」「こんな意味だったのか」「勇気をもらった」といった感想が続々と寄せられた。
ツイッターでも最近になって、元の動画から独立した形でこの現代語訳が相次いで紹介され、これまで知らなかった人にも改めて反響が広がっている。
江戸時代は「絵般若心経」もあった
「般若心経」は600巻に及ぶ「大般若波羅蜜多経」の教えを、わずか300字ほどに要約した経典だ。現在よく知られるのは玄奘三蔵がサンスクリット語から漢訳したとされるもので、日本でも古くから多くの宗派で重んじられており、数多くの「現代語訳」や解説本も出ている。
ここ2、3年に限っても、現役僧侶で小説家の玄侑宗久さん監修の『面白くてよくわかる!般若心経』から、脳科学者の苫米地英人さんによる『一生幸福になる超訳般若心経』、お笑いコンビ「笑い飯」哲夫さんの『えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経』といったところまで、さまざまな観点から読み解いた書籍が出ている。
今回の「若者言葉」の意訳版については、ネットでも今のところ、過去の訳や、これまでに発売されたラップ調の意訳版との類似性の指摘がないことから、投稿者による独自訳と見られている。
高野山真言宗総本山・金剛峯寺総長公室課長の薮邦彦(やぶ・ほうげん)さんによれば、たとえば江戸時代には文字が読めない人でも読経ができるよう、その文句を絵で表した「絵般若心経」ができるなど、時代を問わず「般若心経」は人の心をつかんできたという。藪さんは「個人的な見解ですが」と断りつつ、
「『般若心経』の価値はいつの時代も変わりませんが、その表現は世代ごとに違った方法があると思います。インターネットへの書き込みという形も、若い世代の知的好奇心に訴えかけるアプローチの一つでしょう。経典の意味を知ることは有意義ですが、誤った理解はしないよう気をつけてほしいです」
と話した。