世界的なカネ余り現象のなかで、海外の投資マネーが日本の短期国債に向かっている。2011年5月には1月からの累計貸越額が50兆円に迫り上半期の過去最高を更新。米国債の格下げが取沙汰されたことで加速した。
海外投資家が「安全で一定の利回りが見込める」と買い進めているとされ、「円高の原因のひとつ」との指摘もあるなか、いったい誰が買っているのか。
米国債の格下げが引き金
短期国債は償還期間が2か月、3か月、6か月、1年の4種類。期間が1年超の中長期国債に比べて金利上昇(価格の下落)リスクが小さいので、資金の一時的な退避先になりやすい。
財務省が8月18日に発表した7~13日の対外・対内証券投資(指定報告機関ベース)によると、海外投資家による短期国債の買越額は2兆9752億円で、統計を公表している2005年以降で過去最高となった。
この週は、5日に米格付け会社のスタンダード&プアーズが米国債の格下げを発表したことを受けて投資マネーが日本国債に一気に流れ込み、前週の8847億円の買い越しを3.3倍も上回った。
国際金融アナリストの枝川二郎氏は、「円高が続くなかで日本国債が人気なのはおかしなことではないし、最近は米国債の格下げが懸念されていたこともあり、日本国債に資金が流れ込むことは当然のこと」と話す。
米国債の格下げによって金利が上昇(米国債の価格は下落)すれば、保有している米国債は損失を被ることになる。米国債の代替資産として日本国債、なかでもリスクが少ない短期国債は「有効」というわけだ。
新興国、外貨準備高の多様化の一環
では、いったい誰が短期国債を買っているか――。その詳細は不明だが、日本の短期国債が買われている背景に、海外の中央銀行が外貨準備高の多様化を進めていて、円資産を増やしているともいわれる。
前出の枝川氏は、「外貨準備高が多い中国や台湾などは日本国債を重視しています」という。中国は世界第1位の米国債の保有国だ。今なお米国債の格下げ懸念がくすぶり、リスクを分散しておきたいと考えるのはごく自然な流れだ。
財務省も海外勢で短期国債を買っているのは「アジアの新興国」とみているし、中国やインドネシアが買っているとの見方もある。
8月24日、米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスが日本国債を「Aa2」から「Aa3」に1段階格下げし、21段階の上から4番目にランクした。これは中国と同じ水準だ。
しかし、枝川氏は「ダブルAの水準を確保しているうちは、影響もあまりないでしょう」とみており、海外投資家の短期国債買いはしばらく続きそうだ。