「和牛オーナー制度」で知られる安愚楽牧場(本社:栃木県)が経営悪化を理由に、全国3万人のオーナーや取引先への支払いを休止している。福島第一原発事故の影響で出荷規制があったり、牛肉価格が下落したことが原因だと牧場では説明している。
2011年8月2日に細野豪志・原発担当兼消費者担当相が同牧場も賠償の対象となる可能性を示唆したが、「和牛オーナー制度」問題に長く取り組んできた紀藤正樹弁護士は、初めからこのビジネスモデルには無理があったのではないかと推測する。
「和牛預託商法」、同業者は過去に次々と経営破綻
安愚楽牧場は1981年に設立。現在は全国40ヵ所に直営牧場と338ヵ所の委託牧場で14万頭以上の黒毛和牛を飼育している。
ここの「オーナー制度」は和牛を出産・飼育するための出資を募り、生まれた子牛を買い取っている。子牛の買い取り価格から諸費用を差し引いたものがオーナーに「金利」として渡される。その「金利」は年に5%から7%ほどで銀行預金に比べれば高利回りだと人気になった。
同牧場のような「和牛預託商法」に参入する業者が相次いだが、1990年後半にその殆どが採算が取れず経営破綻。中には資金を集めるだけで配当をせず、出資法違反や詐欺容疑で摘発される業者が出るなど大問題になった。
紀藤弁護士によれば、「和牛預託商法」を行っていた殆どの業者が破綻したのは、このビジネスモデルが最初から無理があったため。一般的なファンドの場合、投資先を複数にすることでリスク分散させながら利益を追求するが、「和牛預託商法」の場合は投資が牛だけ。伝染病が蔓延したり、牛肉価格が下落したりすると一気に立ち行かなくなる。そうした中でなぜ、安愚楽牧場だけが生き残りオーナー達に配当金が支払われていたのか。