先発に初起用した選手が、なんと2ゴール――。巧みな采配をみせる、なでしこジャパンの佐々木則夫監督(53)に、世界の注目が集まっている。実は、その起用には、ある仕掛けがあるというのだ。
サッカー女子W杯を前にした2011年1月、佐々木則夫監督は「なでしこ力」とタイトルを打った本を書いている。
男子サッカーとは、指導法を変える
「どんな相手にも、臆することなく普段どおりの自分を表現する」。そんな日本人女性のパワーをタイトルに込めたそうだ。
そのタイトル通りの力を、なでしこの選手たちは、本番で発揮している。準々決勝では、3連覇を目指した強豪のホスト国ドイツを初めて破った。そして、7月14日未明の準決勝では、スウェーデンに3対1で圧勝し、悲願のメダル獲得を決めた。
さえているのが、佐々木監督の選手起用だ。
ドイツ戦では、FW丸山桂里奈選手(28)を試合途中で使い、延長戦での見事な決勝ゴールにつなげた。また、スウェーデン戦は、FW川澄奈穂美選手(25)を先発に初めて起用。川澄選手は、期待に応え、同点とダメ押しの2ゴールをも決めている。
こうして選手の力を引き出せるのは、佐々木監督が、普段から女心に寄り添う努力をしているかららしい。
その著書で、キャプテンのMF澤穂希選手(32)は、いいところはほめ、落ち込んでいればケアしてくれる選手思いの監督だとの一文を寄せている。飛行機が遅延したときも、人数分の毛布を集めてきてくれたといい、なでしこの選手たちはみな「ノリさん」と親しみを込めて呼んでいるという。
佐々木監督は、著書内で、男子サッカーの指導者を長くしていたが、あることをきっかけに、女子選手への接し方は違うことに気づいたと明かす。
「横から目線」で選手らの信頼得る
それは、佐々木則夫監督がケガをしたとき、選手らが動揺してしまったことだ。男子の場合、監督のケガに動揺する選手はまずいない。そのことから「男女では気を配るポイントが違う」と感じたという。逆に言えば、日本人女性には、「仲間を思いやり共感する心」があるということであり、その女心に寄り添い生かせれば、すごいパワーになる、という確信だった。
その確信から生まれたのが、選手と同じ目の高さで接する「横から目線」という指導法だ。著書発行元、講談社の担当編集者は、こう読み解く。
「男だから、指導者だからといった『上から目線』でなく、部下の意見もよく聞き、ほめて自信を持たせるやり方です。選手と同じ目線で見る新しいタイプで、男性の監督では少ないと思います。明るいプラス思考でもあり、イングランド戦に負けたときも、監督は、選手たちが過度に萎縮しないよう、あえて叱りませんでした」
佐々木監督は、普段からとても気さくで、オヤジギャグで選手らを和ませるのがうまいという。試合前には、自分の好きなお笑い芸人のビデオを選手たちに見せていたようだ。
著書でも、その「横から目線」ぶりを示すように、妻の淳子さんが寄せた一文で、監督は自然に考えさせるような話し方をすると語っている。娘のサッカー練習を手伝ったときも、その指導ぶりが評判だったそうだ。
ただ、担当編集者は、サッカーについては、とてもまじめだと言う。妻の淳子さんも、サッカーのことになると感情的になるので忠告したほどだと明かす。もっとも、自分の意見にこだわっているわけではなく、あくまでも目標達成にこだわっているからだという。試合などで、厳しい表情で選手に向き合っているのも、そんなこだわりがあるからのようだ。