インターネット上の住所にあたる「ドメイン名」のルールが大幅に変更される。「.com」など少数に限定されていた名称が、今後は原則的にどのような語句でも使えるようになるのだ。
企業名や人名などの固有名詞から、「.bank」「.sports」といった用語も、申請が通れば利用が認められる。ただし審査は厳格で、費用も高額だ。
社名や商品、「.富士山」といった日本語も可
ネットのアドレスの末尾にある「.com」「.jp」のようなドメインは「トップレベルドメイン」(TLD)と呼ばれ、国際団体「ICANN」が管理している。
ICANNは2011年6月20日、TLDのなかでも現在22種類に限られている「汎用トップレベルドメイン」(gTLD)について、一般用語でも登録を認める決定をしたことを発表した。基本的に申請をして受理されれば、語句を問わずgTLDとして利用可能となる。
ICANNによると、今回の決定は「ネット社会や企業、政府当局との長年にわたる討論の末に下された」という。gTLDの拡張は以前から要望が出されていたようだ。企業にとっては、商品のピーアールやブランド向上に活用の範囲が広がる。「.toyota」「.sony」といった社名や、銀行業界が協力して「.bank」というドメイン名を共同で取得、使用することも考えられる。個人事業主なら、gTLDの前に入る「セカンドレベルドメイン」と組み合わせて、「http://www.suzuki.ichiro」というように氏名を用いたアドレスも認められるかもしれない。言語を問わないので、「.日本」「.富士山」のように日本語でのドメイン名も申請可能だ。
国内では、キヤノンや日立製作所が独自のgTLDの申請に前向きと言われ、2011年8月に設立予定の「ドット琉球」は、「.okinawa」と「.ryukyu」の2つを申請する見込みだ。
汎用性の高いgTLDを入手できれば、「ドメインビジネス」が成り立つかもしれない。6月20日付の米ウォールストリートジャーナルでは、「.doctor」というgTLDを、医師の個人名と組み合わせて販売するといった例を示し、「ドメインに付加価値をもたらすので、私なら1件1000ドル(約8万円)で売るだろう」というドメイン登録会社CEOのコメントを紹介している。
やみくもに申請してくるケースを防ぐためか
現在はgTLDの数が少なく、「.com」を含むドメイン名は原則誰でも申し込める。国内で登録する場合は、年間1000円単位と高くない。そのためか、中にはフィッシングサイトのような悪質なものや、企業サイトのアドレスに酷似したケースもある。企業名や製品名がgTLDに使われるようになれば、利用者にとっても怪しげなサイトと区別しやすくなるだろう。
とはいえ、手当たりしだいに新しいgTLDを申請するわけにはいかなさそうだ。ICANNは、申請されたドメイン名の審査費用として18万5000ドル(約1480万円)を求める。しかも5000ドル(約40万円)の前払いを義務付けている。かなりの高額な設定にICANNでは、「訴訟が起こった場合を想定した費用」と説明している。敷居を高くして、商売目当てでやみくもに申請を出してくる業者や、無関係の団体が特定の企業名をドメイン名として取得しようとするケースを防ぐためとも考えられる。1つのドメイン名に複数の申請があった場合は、書類をもとにICANNで厳格な審査を行った末に1団体に対して授与する。
受付期間は2012年1月12日~4月12日で、審査には8~18か月を要する。申請・審査方法は350ページに上る「ガイドブック」に細かく規定されている。書類を作成するだけでも相当の手間が予想され、しかも決して安くはない「買い物」だけに、申請する側は「費用対効果」を考慮する必要があるだろう。