女性が好む服装が東日本大震災後、変わってきている。東京都内の大手百貨店では、パンツや、かかとが低い靴の売り上げが震災前に比べ、急速に伸びているといい、商品戦略を見直す店舗も出ている。色もカラフルより抑え目のものに人気がシフトしており、震災後の意識の変化を指摘する声が出ている。
「夏に向け、パンツをミセス部門の『強化アイテム』にすることにしました」と、東京都中央区にある日本橋三越の担当者は話す。通常ならミセスからの引き合いはそれほど強くないとされるパンツ。しかし、同店の4月の売り上げは前年同期比6%増で、婦人服部門に占める売り上げシェアは2%上昇した。
「バレエシューズ」の売り上げ5割増えた
「『何かあった時のため、動きやすい服を身につけていたい』という女性のお客様の声がとても多い。今後もこの傾向は続いていくだろうと見ています」と同店は話す。銀座の老舗百貨店の中には震災発生以降のパンツの売り上げが1割強も上昇したという店もある。
「歩きやすい靴」に対するニーズも高まっている。新宿の大手百貨店では「商品によっは、5月の売り上げが5割増にも上るウオーキングタイプのシューズがある」という。中央区の松屋銀座でも震災直後から5月中旬までのバレエシューズの売り上げは5割増えた。バレエシューズとは、つま先が丸く、ヒールのない靴を指す。
「『歩きやすい』というのがカギだが、ただの運動靴ではダメ。女性たちが欲しがっているのは、会社にも、デートにも普通に履いていける「疲れない靴」で、震災後、この傾向は非常に高まっています」と大手百貨店の関係者は説明する。
大震災が発生した2011年3月11日、首都圏の交通機関は大混乱し、当日のうちに都内から自宅に帰れなかった人は約300万人に上ったとの推計もある。歩いて自宅を目指した人も多いが、ハイヒールや堅い革靴を履いていた人は苦しい思いをしており、「もうヒールの高い靴を履いてつらい思い はしたくない。日ごろから緊急時に備えたい」(都内在住の30代女性)との声は少なくない。
パンツやかかとの低い靴に人気が集まっているの は、「震災を機に活動的なアイテム を重視しようという意識の表れ」(大手百貨店)といえそうだ。
白を中心とした落ち着いた色調の服が人気
そうした実用性だけでなく、色にも震災後、変化が見られるという。「震災後に売れている服は、麻やニット、コットン100%などのナチュラル 素材で、ゆったり着られるもの。それと同時に、好まれる色も白やベージュ、サックスブルー(淡い青)が中心になった」と話すのは銀座の老舗百 貨店担当者。
同店は、世界的なファッショントレンドを研究し「今年の春・夏ものの注目カラーは赤やオレンジだと想定」。震災前には、景気回復 傾向もあって、カラフルな色の服がかなり売れていた。しかし震災を機に、明るい色は急に売れなくなり、代わって売れ出したのが、白を中心とした落ち着いた色調の服だという。
こうした変化の背景として、「消費者の精神的な変化がある」との見方が少なくない。震災後、心の支えを求め、結婚や出産に踏み切る女性たちが 増え、結婚相談所やジュエリー店が繁盛しているという。「震災でこれまでの生活の危うさを痛感し、『自然』や『身近なもの』を大切にする傾向 がファッションの世界に広がっているのではないか」(流通関係者)というわけで、こうした傾向はしばらく続くと見る向きが多い。