福島第1原発の吉田昌郎所長(56)は「英雄」なのか。東京電力本店の意向に逆らうことも辞さない「気骨ある」人物として持ち上げられる一方、「英雄視するのはおかしい」と冷めた見方も出ている。
「現場の最高指揮官として命かけたんだね。現場は生きるか死ぬか」。吉田所長の「独占インタビュー」を伝えた情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」(TBS系、2011年6月7日放送)で、司会のみのさんは、吉田所長の判断や行動について、こう感心してみせた。
勲一等か国民栄誉賞もの?
みのさんのコメントは、3月12日の「海水注入、実は中断せず」問題に関するものだ。菅直人首相の思惑を忖度した東電本店が、すでに始めていた原子炉への海水注入を中断するよう吉田所長に指示を出し、実行されたことになっていたが、実は吉田所長の判断で注入は続行していたことが5月末になって分かったのだ。「正しい判断だった」(東電の武藤栄・副社長)と評されている。
吉田所長をめぐっては、注水問題以前から、「現場を大切にして本店に逆らう」こともある、現場の信望を集める「気骨ある」指揮官として紹介されていた。「日本の運命を握るヨシダという男」(週刊現代、5月7・14日合併号)などの記事が続いた。
特に、注水問題を巡って吉田所長の処分問題が浮上した際には、インターネットのツイッターなどで、吉田所長擁護論が沸騰した。「吉田所長が私たちを守った」「所長は日本の恩人」などと処分方針を批判する声が相次いだのだ。
枝野幸男・官房長官にいたっては、吉田所長について「秋まで政権が続いていれば勲一等か国民栄誉賞ものだ」とオフレコで語ったとも伝えられている(週刊現代、6月11日号)。
一方、新聞には吉田所長に批判的な見解が少なからず載っていた。例えば朝日新聞の社説(5月28日付)では、「所長の判断には理解できる面がある」としながらも、事後に本社に伝えるべきで、「結果的に正しい判断だったとしても、政府や東電の発表内容に対する信頼が大きく損なわれた」と指摘した。