神奈川県産のお茶の葉から暫定規制値を超える放射性セシウムが検出され、「なぜこんな離れたところで」と波紋が広がっている。専門家によると、その理由は、樹木の新芽にみられる、ある特性にあるというのだ。
セシウムの規制値超えは、福島第1原発から約300キロも離れたところだ。そこから、なぜかお茶の葉だけが、しかも爆発事故から2か月も経って検出されたことになる。
「溜まったセシウムが新芽に流れた」
神奈川県の発表によると、特産「足柄茶」の茶葉からセシウムが検出されたのは、2011年5月9日のサンプル検査から。その値は、食品衛生法上の暫定規制値1キログラム当たり500ベクレルを超える550~570ベクレルだった。一番茶が5月6日に出荷・販売されており、県は11日、関係先に茶葉の回収や出荷自粛を要請。新茶の季節だけに、ネット上でも、周辺産地のも含めて、お茶を飲むのに不安の声が漏れている。
大気中の放射線量は、神奈川県では、爆発事故後に一時的に増加することはあったが、4月半ば以降は平常値が続いている。また、県によると、県産の小松菜やホウレンソウについては、放射性物質は不検出だった。
それにもかかわらず、なぜ今ごろ原発から離れた神奈川県で、お茶の葉だけが規制値超えしたのか。
この点について、県の農業振興課が、農水省を通して専門の研究者に照会したところ、新芽の特性に関係があるとの推測結果が出た。
この研究者は、取材に対しては、次のように説明している。
「冬の間も茂っていた葉に、大気や雨に含まれるセシウムが付着し、葉がそれを吸収して溜めていたことが考えられます。新芽が出るときには、糖分やアミノ酸、ミネラルなど大事な成分が樹木内から新芽に流れていくのですが、溜まったセシウムも同時に流れたはずです。それで、新芽にセシウムが濃縮して、規制値超えになったのではないでしょうか」
「飲料水としては問題ないレベル」
ミネラルの中には、天然のカリウムがあるが、セシウムは似た性質があるという。つまり、セシウムは、カリウムと同様に、新芽が出ればそこに流れてしまうというわけだ。神奈川県によると、お茶の新芽は、4月半ばから出てきた。
小松菜やホウレンソウについては、この研究者は、葉がセシウムを吸収したものの、濃縮されなかったために、検出されなかったのではとみている。
とすると、周辺産地のお茶の葉も放射性物質に汚染されている可能性があるが、どうなのか。
西隣に位置する規模日本一の「静岡茶」については、静岡県は2011年5月11日、サンプルが規制値の500ベクレルを下回ったと発表した。御前崎市で2日採取の茶葉を検査したところ、セシウムが82.9ベクレルだったという。静岡は、神奈川よりも原発から離れているため、比較的汚染が少なかった可能性がある。
一方、神奈川より原発に近い「狭山茶」については、埼玉県の生産振興課では、これまで検査しておらず、今後検査する方向で準備しているとした。厚労省が11日、14都県に茶葉の検査強化を要請したのを受けたものだ。検査しなかった理由については、「牧草検査などで規制値をはるかに下回っていたため、お茶も安全だと考えていました。新芽に放射性物質が濃縮されるという情報は知りませんでした」と説明している。
神奈川県によると、茶葉から検出されたセシウム570ベクレルは、人体への影響に換算すると、0.0074ミリシーベルトになる。茶葉1キロ、製品にして200グラムのお茶を1年間毎日飲み続けると、年間2.7ミリシーベルトになり、人の許容量1ミリシーベルトを上回る。
ただ、これだけ大量に飲むことは通常は考えられない。また、前出の研究者は、お茶1グラムを100ミリリットルのお湯で出すと、飲料水としては問題ないレベルになるはずだと指摘する。そのうえで、「飲料水レベルかお茶製品レベルか規制の基準がありませんので、それを明確に決めるべきでしょう」と言っている。