福島第1原発事故の復旧作業が長期化している東京電力に対し、メガバンクなどが約1.9兆円の緊急融資に応じた。巨額の廃炉費用や損害賠償を背負うとみられる東電を金融業界が支える裏には、電力供給という公益事業を独占的に担う東電を「国はつぶせない」という暗黙の保証がある。
もし東電が破綻し、株主責任を問われたり、債務カットなどが行われたりする事態になれば、幅広い投資家や金融機関に大打撃を与えるだけに、政府は東電の今後の経営について、慎重に対応を探ることになりそうだ。
「融資の要請を断る選択肢はあり得ない」
「日本が生きるか死ぬかの瀬戸際。原発事故処理や代替電力確保が現在進行形で行われている中、融資の要請を断る選択肢はあり得ない」
メガバンク首脳は、東日本大震災の発生から間もなく大手行などが実行した東電への緊急融資についてこう説明する。緊急融資の内訳は、三井住友銀行が6000億円、みずほコーポレート銀行5000億円、三菱東京UFJ銀行が3000億円のほか、住友信託銀行など信託各行も参加し、日本政策投資銀行も危機対応融資を実行する。日本生命保険など東電の主要株主である生保も融資を検討中だ。
金融業界挙げての支援態勢を示した形だが、メガバンクなどが慌てる一幕もあった。玄葉光一郎国家戦略担当相が2011年3月29日の会見で「東電のあり方はさまざまな議論がありうる」と国有化も選択肢の一つであることを示唆したからだ。
市場では「公的資金が投入されれば、株主責任を問われ、東電債の債務不履行(デフォルト)や金融機関の債権放棄も避けられない」との警戒感が広がり、東電株の暴落や東電債の国債に対する上乗せ金利(スプレッド)拡大に拍車がかかった。東電株などに投資する生保や銀行の株価が下落する場面もあり、金融業界からは「市場が壊れかねない」(大手行幹部)と悲鳴が上がった。
減資や社債の再編行われれば金融危機に発展?
東電の株式や社債は従来、「安定銘柄」として生保や銀行、年金基金、地方自治体、個人投資家などが幅広く保有。「国債より安全」とまで言われていた東電債の発行残高は5兆1747億円(2010年12月末現在)と国内最大だ。東電の経営体制の見直しをめぐり、減資や社債の再編が行われれば、「金融危機に発展する」(アナリスト)との見方さえある。
このため、政府・与党内でも、国が東電を支援する代わりに株主や債券投資家にも責任を負わせるという枠組みには「経済への影響が大きすぎて、かえってコストがかさむ」(民主党議員)と慎重論が根強い。
そもそも原子力損害賠償法は、原発事故による被害の賠償について電力会社が無限責任を負うことを原則とする一方、「原発が国策である以上、損害賠償は国も最後まで面倒をみることが法の趣旨」(政府関係者)。菅直人首相も4月1日の会見で「東電の一義的な責任を超える場合は、政府としても責任を持って対応しなければならないが、基本的には民間事業者として頑張ってほしい」と述べた。
政府は被害者に対する賠償金支払いを支えつつ、金融市場への打撃を避けながら、電力を安定供給できる新たな経営の枠組みを模索しなければならない。ただ、原発事故の収束の見通しがたたない中、損害賠償額の試算さえ難しく、政府と東電の負担割合も不透明。東電の経営体制の行方は見通しづらく、金融業界や市場がやきもきする状況が続きそうだ。