政府・民主党が「東日本大震災復旧・復興対策基本法」など特別法16法案の素案作りを始め、復興へ向けた具体的議論が本格化する。
柱は、被災者の生活再建、被災地の復旧・街づくり、企業の再建支援の3本だが、土地強制買い上げや国債の日銀引き受けという「禁じ手」にも言及し、議論を呼んでいる。
家を失った被災者「二重ローン」の負担軽減
素案は民主党特別立法チーム(中川正春座長)と政府側がすりあわせながら作成。インフラ整備にとどまらない「21世紀における我が国の再興(再創造)を目指す」との基本理念を掲げ、今後5年間を「集中期間」として資源を投入するとしている。
2011年4月中旬までに国会に法案を提出し、月内成立を図る。対策の規模は最終的に10兆円を上回るとみられるが、当面は第1弾として、立法、国会審議と並行して2兆円程度をメドに第1次補正予算案を編成する考えだ。
生活支援では、家を失った被災者に支給される生活再建支援法に基づく支援額の上限(現行300万円)の引き上げを検討。一部を前倒しで支給することも検討している。新たに住宅を取得して、壊れた家の分と合わせた「二重ローン」の負担軽減も盛り込む。生活基盤を失って破産せざるを得ない被災者が手元に残せる現預金も、通常は99万円だが、400万円まで認める。
街の復旧では、自治体の財政を支援し、警察、消防、病院、火葬場などの公共施設やインフラの整備費用の国庫負担割合を引き上げる。
企業には法人税の還付のほか、金融機関の検査で融資先企業の評価を弾力化し、不良債権認定による融資引き上げなどを防ぐ。
所得税も法人税も上がりそう
復興の資金面では、自治体による「復興基金」設立が大きなポイントだ。これなら、予算のように議会の議決がいらず、機動的に事業を進められる。阪神大震災では「阪神・淡路大震災復興基金」を設け、兵庫県と神戸市が出資した計200億円を基本財産とし、民間から借り入れた運用財産8800億円も加えて構成。国が地方交付税で利払い負担の一定部分を肩代わりし、10年間で113事業(3700億円)を実施した。今回は、各県単位などで複数設立されるとみられ、国が全額負担する考えも打ち出した。
物議を醸しそうなのが、こうした復興を円滑に進めるため、土地所有権の制限を検討するとしていること。津波で水没した土地の復興には、国による土地の買い上げが不可欠との判断だ。特に復旧が困難で集団で移転するほかない地域では、土地の所有権という「私権」を公権力によりある程度制限し、移転を円滑に進めたい考えだ。ただ、阪神大震災でも、国主導の復興策には反発も出た。地域によって住民の要望をいかに吸い上げて反映していくかが鍵になり、自治体との調整をうまく進めるとともに、NPOなどとも連携していく必要がありそうだ。
もう一つの難題が財源。臨時増税や「震災国債」の発行を検討するとし、特別税は(1)所得税の一定割合を上乗せする定率増税、(2)法人特別税、(3)特別消費税――の3案を示す。消費税は被災地だけ除外するのが難しいので、まず不可能と見られる。「所得税の多い人ほど負担が増す累進制が明確な所得税の定率増税を、被災地を除外して導入するのが現実的」(エコノミスト)だろう。
日銀の直接引き受け案に批判相次ぐ
国債は、通常の国債と別勘定で管理し、特別税などで償還する「震災国債」とする案を打ち出した。問題は、これを日銀に引き受けさせることも検討するとした点。戦前、日銀引き受けで軍事費の膨張を許し、ハンパーインフレを招いた反省から、戦後、日銀引き受けは禁止されている。
日銀が直接引き受ければ市場での国債の需給悪化を招かないとメリットがあり、また、いずれ特別税で償還するから、「引受は一時的」(民主党筋)という位置付け。日銀が国債を引き受けた分、市中に出回るお金の量が増え「デフレ対策としても効果がある」(自民党議員)との見方もある。
だが、中央銀行が国債を引き受けるなど、財政危機に揺れる欧州のギリシャやアイルランド、ポルトガルなどでも例がない。このため、与謝野馨経済財政相が4月1日の閣議後会見や3月31日のテレビ番組で、「財政規律を無視した行為で、安易なことをやると繰り返してしまう。日本は国際的な信認を失う」などと批判。
野田佳彦財務相も31日、震災後の20年国債などの入札が市場で順調に消化されたことや、日銀引き受け案が報道された直後に長期金利が上昇したことを指摘し、「市場がどうみているかは一目瞭然だ」と一蹴した。もちろん、日銀も「中央銀行が国債引き受けを行わないのは世界で確立された考え方。異例の政策は通貨の信認を失墜させる」(白川方明総裁)と断固反対の構えだ。