福島第1原発事故を受け、厚生労働省がホウレンソウなどの放射性物質測定方法について、「水洗いせず」から「水洗い後」にこのほど変更した。この変更について東大病院の関係者がツイッターで触れたところ、一部の書き込みのみが引用され、インターネット上で「検出される数値を低くみせるために政府の隠蔽工作が始まった」などと一部で取り上げられた。東大病院・厚労省とも関係者は「まったく誤解だ」と説明している。
「マニュアルでは『水洗いせず』との記載がありますが、厚労省から別の通達で水洗いしてから測定するように各自治体や測定機関に連絡があったようです」。2011年3月23日、「東大病院放射線医療チーム」のツイッターにこんな書き込みがあった。東大病院に確認したところ、同病院所属の准教授が書いているものだという。
従来のマニュアルなら「水洗いせず測定」
ネット上では、同医療チームの書き込みが、ツイッターの画像写真付きなどで紹介された。2ちゃんねるでは「極力(検出される放射性物質の)数値を低くみせようってことだろ」「政府が隠蔽に動いている」などと書き込まれた。こうした反応をまとめたサイトも登場し、さらにはツイッター上で同まとめサイトを紹介する書き込みも続いた。
本当にマニュアル記載から測定方法が変わったのだろうか。厚労省によると、3月17日に出した部長通知とそれを受けた翌18日の事務連絡で、ホウレンソウなどについて「水洗い後」に測定することが各自治体などに伝えられた。それ以前は、02年に同省がまとめた「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」を使っており、その規定によると「水洗いせず、土付きの」ホウレンソウを測定することになっていたという。
なぜ測定方法を変えたのか。それは、福島第1原発事故を受けて生まれた「暫定規制値」が関係していた。食品衛生法では、これまで放射性物質検出に関する規制値はなかったため、原子力安全委員会の「飲食物摂取制限に関する指標」を暫定規制値として使うことにした。これが3月17日の部長通知の内容だ。
こうなると、「食用に供する状態」の農作物の放射性物質検出結果が必要になってくる。従来のマニュアルでは、「環境モニタリングの一環」(厚労省)としての測定だったため、「水洗いせず」土壌の放射性物質の影響も含め測定する、という発想だったという。今回は、食品衛生法上の観点から「食用に供する」状態の測定値を知るために、測定方法を変えたと厚労省は説明している。
東大病院「こちらの意図とは違う」
一方、東大病院では、ツイッターを書き込んだ准教授は「外出中」ということだった。同医療チーム関係者は、問題のツイッターの記述に関して「数値を低くみせるために厚労省が測定方法を変更した」との受け止め方が一部で広がっていることについて、「それはこちらの意図とは違う」と説明した。
准教授らは、厚労省02年マニュアルの「水洗いせず」の方針を批判し、「水洗い後」にするべきだと主張していたのだという。ホウレンソウに関する放射性物質検出に関する国際データは、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を受けたオランダの資料などごくわずかで、その資料は「水洗い後」のものだ。国際比較して影響の大きさを判断するためには、「水洗い後」にして条件をそろえる必要がある、という主張だ。
厚労省が従来通り02年マニュアルを適用していると准教授らは思っていたが、後に「水洗い後」に方針を変えたことを知った、という流れがツイッター上で書かれている。その一部がネットで引用され「誤解された」ということのようだ。