宿泊客にゲームソフトを貸し出した神戸市内のホテルが、著作権法違反(上映権侵害)の疑いで摘発を受け、ネット上では、「どこもやってそうなのに」と疑問の声が噴出している。これに対し、警察側は、「ソフト制作には金がかかっており、業界の処罰意識は高い」と説明し、刑事告訴があったので捜査したと言っている。
摘発されたホテルは、2010年9~11月まで、宿泊客への無料サービスとしてゲーム機やソフトを貸し出していた。
任天堂などがホテルを刑事告訴
貸し出されたのは、「マリオカートWii」や「バイオハザード5」など4作品。少なくとも4人がこれらを借りて室内のテレビで楽しんだことが分かっており、兵庫県警生田署などは11年2月1日、ホテルの役員男性(23)を逮捕した。
きっかけは、同署が10年8月、偽装ラブホテルがないかどうか立ち入り調査したことだった。偽装そのものは認められなかったが、著作権法違反の疑いをつかんで内偵捜査を進め、11年1月11日には家宅捜索をして、ゲームソフトなど約70点を押収していた。
役員逮捕が新聞各紙に報じられると、ネット上では、摘発への疑問が相次いだ。ほかのホテルでもゲームを借りたとの声が出ており、「なんで目くじらたてるの?」「やり過ぎだろ」と違和感が強いようなのだ。
生田署の担当者は、ホテルで著作権者の許可なく貸し出すのは、法に触れると強調する。
「家族などに貸したりするのは、問題はありません。しかし、ホテルが無料で貸したとしても、それは客を呼ぶための営利目的になります」
このホテルを敢えて摘発したのは、ゲームソフト会社から刑事告訴があったからだと説明した。
それによると、同署が立ち入り調査後、著作権法違反についてコンピュータソフトウェア著作権協会に照会。協会では、ソフトを制作した任天堂、カプコン、コーエーテクモゲームスの3社をとりまとめ、各社が1月20日に告訴に踏み切った。
ホテル業界には貸し出しが広がっている?
告訴の事情について、生田署では、次のように説明する。
「ゲームソフト業界の処罰意識は、とても高いものがありました。ソフトを作るのには多額の金がかかっており、貸し出しを見逃すとビジネスに差し支えるということです」
コンピュータソフトウェア著作権協会によると、ゲームソフト貸し出しでホテルが摘発された例は、2002年7月に1件だけある。愛知県内のホテルがそうで、しかし、このときは、役員男性らが書類送検されたのみだった。
今回、なぜ逮捕したかについては、生田署の担当者は、こう説明する。
「『著作権侵害になるとは思わなかった』と故意性について当初否認しており、証拠隠滅の可能性が高いと判断したことがあります。ファミリー経営企業でもあり、口裏合わせの恐れもありました」
ゲーム貸し出しについては、まんが喫茶やネットカフェは、業界団体の日本複合カフェ協会を通じて、著作権者の許可を得ている。しかし、コンピュータソフトウェア著作権協会によると、ホテル業界にはこうしたものがないという。
まとまったニーズがないからというが、個々には貸し出しサービスが広がっている可能性はありそうだ。
そんな中で摘発が2件に留まっていることについて、協会の広報担当者は、「警察が立ち入るなどしてしか、裏が取れないこともあると思います。告訴するかは、それぞれの著作権者の判断ということもあります」と言う。
今回告訴に踏み切った任天堂でも、「確かに、氷山の一角かもしれません。しかし、警察から照会がある場合などに排除するしかできないのも事実です」(広報室)と話している。