日本国債の格付けが引き下げられた問題で、菅首相が発した「そういうことに疎い」という発言が波紋を広げている。菅首相や閣僚は防戦一方だが、野党時代には、国債の格付が引き下げられたことに対して、当時の政府を「能天気な総理や財務大臣」などと猛烈に批判してきた。いわゆる「ブーメラン現象」が、またしても発生した形だ。
米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は2011年1月27日夕方、日本の長期国債の格付けを「ダブルA」から「ダブルAマイナス」に1段階引き下げたと発表した。「ダブルAマイナス」は上から4番目で、サウジアラビア、中国、台湾などと同じ水準だ。S&Pの発表では、「格下げは、日本の政府債務比率がさらに悪化するとのS&Pの見方を反映している」とあり、財政赤字が減少する見通しがたたないことを格下げの背景として指摘。さらに、
「民主党率いる連立与党が参議院選挙で過半数議席を確保できなかったこともあり、民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けているとS&Pは考えている」
として、格付けの背景には、民主党への不信感があることも指摘している。
格下げ発表は囲み取材の1時間前
発表後に官邸で行われた囲み取材での発言が、批判を浴びることになった。記者から
「本日ですね、アメリカの格付け会社、スタンダード・アンド・プアーズが、日本国債の長期格付けを下げたんですけれど、これに対する受け止めを聞かせてもらえますか?」
と問われると、財務相経験者でもある菅首相は一瞬、沈黙した後に、
「そのニュース、今初めて聞きまして、あのー、今、本会議から出てきたばかりなんで、ちょっと、そういうことに疎いんで、ちょっと、改めてにさしてください」
と述べた。
この発言を翌1月28日の参院本会議で、公明党の山口那津男代表が「耳を疑った」と批判すると、菅首相は、
「格付けの変更について聞いていなかったということを申し上げたものでありまして、『疎い』というのは情報が入っていなかったことを申し上げたものであります」
などと釈明。
だが、格付けの引き下げが発表されたのは16時51分で、衆院本会議が終わったのが17時26分。囲み取材が行われたのは、18時2分から8分にかけての6分間だ。つまり、囲み取材の段階では、発表から1時間以上、国会が終わってからも30分以上経過している。
仮に菅首相が、囲み取材で初めて格下げのことを聞いていたとしても、官邸の情報収集能力が問われる可能性もある。なお、「広辞苑」第6版によると、「疎い」の項目の最初には、「その人(事)に関係のうすい状態をあらわす語」と定義されている。