学校の先生がモンスターペアレントだとして保護者を訴える――。こんな特異なケースが埼玉県の市立小学校であり、学校側もモンスター対策に本腰を入れ始めたのかと話題になっている。
「モンスターペアレンツに学校や教師が負けないようにし、教諭が教員を代表して訴訟を行っていると受け止めている」
再三の苦情で女性教諭が不眠症に
新聞各紙によると、小学校側は2010年10月、市教委に対し、こんな校長名の文書を提出した。先生が保護者を訴えるのは異例というが、ようやく学校側もモンスター対策に法的手段を持ち出してきたわけだ。
訴えたのは、3年生のクラス担任をしている女性教諭(45)だ。訴えによると、この教諭は6月、女子児童(9)が別の児童から「ぞうきんで殴られた」と訴えたトラブルを仲裁した。これに対し、女子児童の母親が電話で「相手が悪いのに娘に謝らせようとした」と教諭を非難。その後もトラブルがあり、教諭がクラス内で話し合いをさせたところ、母親は「2人の問題をクラスの問題にした」と再び教諭を問い詰めた。
さらに、非難は止まず、7月中旬までに、児童の近況を伝える連絡帳に母親から8度も書き込みがあったという。「先生が自分の感情で不公平なことをして子どもを傷つけています」「最低な先生」といった内容のものだ。
そして、行動はますますエスカレート。女子児童の両親が文科省や市教委に教諭への苦情を寄せたり、給食の時間に児童の背中に触れただけで県警に暴行罪で告訴したりしたというのだ。8月下旬には、学校側が話し合いの場を設定したが、両親は拒否したという。
女子児童の両親による再三のクレームで、女性教諭は9月に不眠症と診断されたといい、その慰謝料500万円を求め、さいたま地裁熊谷支部に同28日付で両親を提訴した。
「訴訟までに学校側もやるべきことがあった」
この両親は、2010年11、12月に2回あった口頭弁論で、訴えを退けることを求めた。教諭が、クラス内でしかっていじめの可能性を作ったり、授業中に手を挙げても無視したりと、女子児童に差別的な扱いをしたと強調。学校側は実態を調べないで勝手にモンスターペアレントに仕立て上げた、と主張しているという。
学校側が「教員を代表して」としているということは、ほかの教員も被害に遭ったのか。両親の主張について、どう受け止めているのか。
こうした点について、市教委に取材すると、学校教育課長は、「あくまでも担任と保護者の間の訴訟と認識しています。訴訟に影響してはいけませんので、コメントはお断りしています」とだけ話している。どうやら、学校側と認識に違いがあるようだ。
教育評論家の尾木直樹法政大教授は、苦情を訴えた両親について、こうみている。
「子どもに全面的に味方する自己中心型と、8回にもわたって苦情を言ったりするノーモラル型の混合タイプだと思います。警察に告訴までするというのは、かなり重いですね。『教員を代表して』訴訟を行っていると言っていることは、ほかの教員も苦情などを受けたのでしょう」
ただ、両親は行き過ぎているとしながらも、訴訟を起こすまでに学校側もやるべきことがあったと指摘する。
「8回もの苦情や話し合い拒否などは事実かもしれませんが、親の心情を分析して、まずエキセントリックになる気持ちを鎮めなければなりません。初期対応が決定的に大事ということです。こうした場合、校長ら第3者も上手に仲立ちしないといけないでしょう。学校側が結束してしまえば、親は敏感になるので、ますますエスカレートしてしまいます。今回より深刻なケースも実はたくさんあり、一つ一つ訴訟を起こしていたら、何万件もしないといけないですから」