鹿児島県阿久根市が消防署や小学校などで取り組んでいる壁画事業が、ネット上で取り上げられ、波紋を呼んでいる。アニメキャラなどのパロディー風作品に異論も出ているが、市側は「地元では、大多数の人が喜んでくれている」と話している。
車庫の壁面いっぱいに描かれた消防車。その前になぜか、ピカチュウや招き猫、それに「北方のモナリザ」とも呼ばれるフェルメール作品などのパロディー風キャラが並んで描かれている。
ブロガーが大量の写真など紹介で波紋
これは、阿久根市の阿久根消防署にあるウォールアートだ。同市の水産商工観光課によると、リコール成立で出直し市長選に出馬表明した竹原信一氏(51)が市長時代に発案した。「アートの街あくね」で市の活性化を図ろうと考え、スプレーなどを使ったシャッターアートで知られる神奈川県藤沢市在住の清田定男氏(71)に制作を依頼した。
ウォールアートは、消防署以外も、市役所や小学校、図書館、防波堤に施されている。人物や風景のほか、防波堤には、ディズニーキャラらしきものも描かれていた。この街作り事業は、議会と対立していた竹原前市長が2010年7月、業務委託料約500万円の予算案を、議決を経ずに専決処分した。
もともとは、シャッター通りと呼ばれた商店街の活性化として、シャッターアートを65か所で取り組んだのがきっかけだった。こちらも清田氏がすべて手がけており、ビートルズのアルバム「アビイ・ロード」表紙写真を描き、それに小学生の姿を付け加えた作品などが各商店のシャッターに描かれている。シャッターアートの方は、専決処分ではなく、09年9月に市議会で補助金約400万円の予算案が可決されている。
こうした市のアート事業は、マスコミに全国報道はされなかった。しかし、市の関係者とみられるブロガーが11年1月5日、大量の写真とともに、当時消防署署長や小学校校長らから異論があったことを紹介すると、ネット上でその是非を巡って論議を呼んでいる。
「地元では、大多数の人が喜んでくれている」
阿久根市の水産商工観光課長によると、消防署長は、ウォールアートに反対ではなく、市の総務課長に意見具申したという。
「署員の気が散るなど、訓練上支障があるかもしれないという危惧でした。しかし、総務課長が『署員は、どんな火事現場でも入っていかなければならないから、そういうことは考えられないですよ』と説得し、『分かりました』との返事をもらっています」
市立阿久根小学校では、国道に面した法面にウサギや木々の壁画を描いている途中だ。水産商工観光課長は、「校長先生は、児童たちに理解しにくいものを描くのではないかと危惧していました。また、反対する保護者もいることを心配したり、制作中に事故などがあっては困ると考えたりしたようです。しかし、校長先生には説明をしたうえで、了解を得ています」と言う。
アニメキャラなどの著作権については、「専門家にも聞き、パロディーの作品なら問題ないとのことでした」と説明している。
壁画が描かれた現場サイドは、どうなのか。
阿久根消防署の署長は、取材に対し、「こちらでお答えすると波紋が広がりますので、市の総務課に回答を任せています」とだけ話す。一方、前出と別の関係者によると、阿久根小学校は当初、ウォールアート制作を断っていた。
「急な計画提示と着工報告があり、学校側は、どういう趣旨か分からず戸惑っていました。通学路上のでこぼこの岩肌なので作業の安全に不安があり、その後のメンテナンスも難しいこともあります。学校側は、市の特産物や未来につながる絵を描くよう要望書を出しましたが、市側は『相談ではなく、決定で来ました』と言っていました。了解したというより、市の土地なので仕方がなかったということです。実際の絵も、縄文杉など市と関係ないものを描いています」
同校の校長は、取材に対し、「学校としては、ノーコメントでお願いします」と言っている。
壁画が論議になっていることに対し、仙波敏郎市長職務代理者は、こう理解を求めている。
「アートに反対というのは大多数の意見ではなく、地元では、『消防署見違えましたよ』などと喜んでもらっています。専決処分も、市民のことを思ってしたものです。高速や新幹線も通らない陸の孤島と言われる阿久根市で、観光活性化の施策として、アート事業以外のものがあるのなら、こちらが教えてほしいぐらいです。ウォールアートは、鉄道事業者の方が評価してくれて、見学ツアーなどを通じて観光宣伝してくれることになっているんですよ」