民主党の「一兵卒」小沢一郎・元代表は、衆院政治倫理審査会(政倫審)への自主的な出席を求めた岡田克也幹事長の要請を拒否した。幹事長といえば、党務の一番の責任者。しかも、党トップの菅直人首相も小沢氏の出席を求める考えを示しているにもかかわらず、だ。党最高幹部らの要請をいとも簡単に拒絶できる小沢氏は、そんなにエラい存在なのだろうか。
2010年12月17日、小沢氏は岡田幹事長と会い、文書と口頭で政倫審への自主的な出席を拒む考えを伝えた。直前まで「文書のみで回答の方針」とも報じられていた。小沢氏は文書で、自身の裁判が開かれることが確定していると指摘、「(政倫審へ)自ら出席しなければならない合理的な理由はない」と説明している。
幹事長が「一兵卒」に会えない異常事態
岡田幹事長は今後、菅首相と歩調を合わせながら小沢氏に政倫審への出席を求める党内議決をする方向で調整していく。執行部対応に不満をもつ小沢氏が支持議員らを連れて離党するのでは、との憶測を含め、党内で緊張が高まっている。
それにしても、一定数の「派閥」を形成して影響力があるとはいえ、「一兵卒」を強調する小沢氏が、こうも簡単に党最高幹部らの要請を断ることができてしまう現状を見ると、民主党は組織として大丈夫なのだろうか、という疑問もわいてくる。「権力闘争なのだから当然」との見方もあるが、素朴に「変な組織に見える」という指摘もある。
「幹事長の言うことを聞けない一兵卒なんて聞いたことがない」「士官の命令が聞けない一兵卒は除隊が当然だ」。元防衛相の石破茂・自民党政調会長が11月上旬のTBS番組収録でこう小沢氏と民主党を批判した。岡田幹事長の会談要請に小沢氏が応じないことについての感想で、この問題は12月に始まったことではなく、以前から続いていた。
組織行動学などが専門のある西日本の大学の教授は、組織としての民主党について次のように評した。
チームワークを論じる以前に民主党はチームの体をなしていない。人と人が集まれば利害対立は避けられないもので、そこをミッション(長期的目標)実現へ向けて何とかまとまろうとするのが組織だ。その際必要な「まとめ役」が民主党に欠けているという指摘も可能だが、民主党の場合むしろ、政権を取っただけで満足し、その後の日本をどうするか、というミッションに欠けていたことが露呈した、ということなのではないか。
この教授は「そう言えば、政権末期の自民党も組織として崩壊寸前でしたね」と振り返った。今の民主党も似てきたという。
「児戯を見せられているようで論評に値しない」
小沢氏は、6月に幹事長を辞任した際や9月の民主党代表選で菅首相に敗れた後などに「一兵卒として頑張る」と強調していた。また、幹事長職にあった09年12月には、中国へ「大議員団」を引き連れて行き、胡錦涛国家主席との会談で、10年参院選へ向け「私は人民解放軍で言えば野戦軍司令官として頑張っている」とも話していた。
小沢氏の「一兵卒」発言などについて、元空将(航空自衛隊)で軍事評論家の佐藤守さんに質問してみた。小沢氏らの一連の言動については「児戯を見せられているようで論評に値しない」とのことだった。それでもあえて感想をきくと、
「(小沢氏は)軍事的呼称を安易に使っており、軍事的組織を愚弄するものだ」
と厳しい批判が返ってきた。党幹事長を「野戦軍の司令官」に例えたことの是非はともかく、そうした立場にあった人間が「一兵卒に」というのは、「さも反省しているかのような謙虚さを装いつつ、実は責任から逃げた発言に他ならない」という。さらに「そうした無責任さが今回の(政倫審絡みの)言動の無責任さに繋がっている」と断じた。
自民・石破氏の指摘ではないが、やはり民主党は組織として普通ではない変な団体に見えてしまう部分もあるようだ。小沢氏は自身のサイト中の「政策とオピニオン」などで、「『普通の国・日本』を実現する」と訴えているものの、まずは民主党を「普通の組織」にする必要がありそうだ。もっとも、民主党を見限り新党を結成する可能性も幾度となく指摘されている。