「自殺後まで通報はなかった」
男性の自殺を止めるため、もっと早く手は打てなかったのか。
ユーストリーム日本法人「ユーストリーム・アジア」の広報担当者によると、男性が自殺した後の2010年11月9日午前6時から、利用者から異常を知らせる通報ボタンが複数回押された。それを受け、同6時24分に配信を停止させたが、それまでは通報がなかったという。
同社の監視センターでも、利用者を不快に感じさせる配信などがないか巡回して見ていたが、異常には気づかなかった。自殺を実況中継したケースは、日本では初めて聞いたという。広報担当者は、「模倣する人が出てくる可能性がありますので、警察と連携しながら、警戒を強めていきたい」と話す。
男性が勤めていた仙台市内の金融機関も、一般の人から初めて通報があったのは、自殺後の9日午前7時半ごろだったことを明らかにした。それまで、男性が動画中継していたことは知らなかったという。仙台北署からも同じころに、男性の住所を確認する連絡があったとしている。
金融機関の広報担当者は、「連絡先になっている本人の母親に電話すると、『部屋に駆けつけてみます』とのことでした。復職してもらう期待がありましたので、とてもびっくりしています」と話す。男性は4月に入社して1か月ほどで体調を崩して休職し、病院で治療を受けていたという。
精神科医の和田秀樹さんは、男性が自殺を中継した背景には、自己顕示の心理が働いた可能性を指摘する。
「今の世の中は、目立ったもの勝ちで、無名で相手にされないのが一番惨めだと考える風潮があります。学校でも、許されなくなった集団リンチに代わって、無視するいじめが増えています。仲間外れにされたりすると、秋葉原の通り魔事件のように、目立って死んでやろうという動機が働くことも考えられます。さらに、うつ病になると、何でも悪いように取ってしまいがちになります」
そのうえで、こうした死に方を防ぐには、早めに見つけて行為を止めるとともに、悩みを聞いてくれる場所につなぐことが大切だという。男性は、自殺を止める呼びかけには喜んでおり、和田さんは、「止めてほしいという気持ちがどこかにあったのだと思います。もし悩みがあるのなら、いのちの電話など相談できるところに打ち明けてほしい」と話している。