今年で23回目を迎える東京国際映画祭の開幕イベント「グリーンカーペット」の出演を中国と台湾の代表団が「ドタキャン」した問題で、中国側がイベント直前に、主催者側に「『台湾』の呼称は認められない」などとクレームを入れたことが、双方の不参加につながっていたことが明らかになった。
中国・台湾間での折衷案を模索するなか、「時間切れ」で、結果として出演が見送られた。主催者側は「これまでも『台湾』の名称は使ってきた。それでも何のトラブルもなかったのに…。中台両方とも(カーペットを)歩いて欲しかった」と無念さを隠さない。
イベント直前に、「台湾」の名前変更を主催者に要求
六本木ヒルズの「けやき坂」に約200メートルにわたって設けられた「グリーンカーペット」を映画出演者などが歩く開幕イベントは、2008年に「レッドカーペット」をリニューアルする形で始まった。グリーンカーペットとしては3回目になる2010年10月23日のイベントは、約2時間にわたって行われた。
報道陣に配られた資料では、中国から37人、台湾からもビビアン・スーさん(35)ら7人が参加することになっていたが、終盤になって、中国・台湾ともに参加しないことが報道陣に告げられた。だが、不参加の理由は明らかにされなかった。
翌10月24日に行われた台湾勢の記者会見では、グリーンカーペット不参加について、ビビアンさんが「私たちでは解決できない」などと悔し涙を見せる一方、ニウ・チェンザー監督は
「そういうことは、これまでも一度ならず起こっている。大局的な合意がなされていないと、色々と小さなトラブルが起こる」
などと説明。「感想」めいたことは語られたものの、やはり参加見送りの背景に具体的に何があったのかは口にしなかった。
映画祭の事務局によると、イベント直前に、中国側からクレームが入った。イベントは15時から16時30分にかけて行われる予定で、参加者の集合時刻は14時30分。開始までの30分で段取りを説明する予定だが、このタイミングでクレームが寄せられた。「ボイコットに近いことも言われた」(事務局)という。
台湾の日刊紙「中国時報」が、台湾代表団団長の陳志寛・新聞局映画処長の話として伝えたところによると、中国代表団の江平団長が、台湾代表団の名前を変えるように主催者に要求。具体的には、「台湾」ではなく、「中国台湾」または「チャイニーズ・タイペイ」の名称を使用するように求めたが、台湾側は「主権と尊厳の問題を含むので受け入れられない」と要求を拒否したという。
「こんな理不尽な要求をされたことはなかった」
中台問題の板挟みになった形なのが映画祭の事務局だが、「落としどころ」を上手く見つけきれなかった様子で、
「中国側の役者さんや監督も『歩きません』という気持ちではなかったと思います。主催者としては、(中台)両方に歩いて欲しいという立場なので、両方が納得できるような折衷案を模索してきました。例えば、『台湾の名前ではなく、作品名を掲げて歩く』といったことです。でも、片方が納得したとしても、もう片方が納得しない。そうやってもめている間に、17時の時点で『時間切れ』になってしまいました」
と、無念そうだ。
トラブルの発端になった中国の江団長は、環球時報に対して、
「主催者が『ひとつの中国』の原則を守らなかったため、中国代表団が映画祭の関連イベントからの撤退を決定したのは遺憾。この問題は、台湾の同胞とは関係ない。東京の事務局の落ち度だ」
などと主張。自らのクレームを正当化した。だが、事務局側は、
「これまでも『台湾』の名称は使ってきたが、何の問題もなかった」
と反論している。クレームがイベント開始の直前だったことにも困惑している様子だ。
また、中国時報によると、台湾の陳団長は、
「これまでも多くの国際映画祭に参加したが、こんな理不尽な要求をされたことはなかった。我々の映画は、ASEAN諸国、欧州、米国といった中国語圏をターゲットにしている訳であって、中国大陸だけがターゲットなのではない」
などと憤っていたという。
事務局によると、映画祭2日目以降は、予定通りプログラムは進んでいるという。