「コレステロール」と聞くと、「悪い」というイメージを持っている人がほとんどだろう。ところが、日本脂質栄養学会が「コレステロール値は高いほうが、死亡率が低い」という研究成果をまとめ、これまでの「定説」を覆した。
コレステロール値については、血中のLDL(悪玉)コレステロールが増加すると動脈硬化になり、心筋梗塞なども起きやすくなるとされていた。
コレステロールの善玉悪玉説は根拠崩れた?
日本脂質栄養学会は2010年9月3、4日に開いた学会で発表した「長寿のためのコレステロール ガイドライン(2010年版)」で、「コレステロール摂取量を増やしても血清コレステロール(TC)値は上がらない」と指摘している。
「『高リノール酸植物油の摂取を増やし、動物性脂肪とコレステロールの摂取を減らす』という従来の栄養指導は、むしろ心疾患、ガンなどを増やす危険性が極めて高く、これを勧めない」「血清コレステロールの善玉(HDL-C)・悪玉(LDL-C)説はその根拠が崩れた」など、14章からなるガイドラインは、コレステロール値を低く抑えることが健康への「近道」と思っていた人にとっては衝撃的ともいえる内容だ。
今回の研究では、東海大学が神奈川県伊勢原市の老人基本健診受診者(男性8340人、女性1万3591人)を平均7.1年間追跡した結果、男性ではLDLコレステロール値が79ミリグラム以下の人より、100~159ミリグラムの人のほうが、死亡率が低くなったことがわかった。
日本脂質栄養学会は「欧米の過去5年間のデータをみても、少なくともLDLコレステロール値の140ミリグラムや、総コレステロール値の220ミリグラムの基準は低すぎることがわかりました。最近はコレステロール値だけで判断して薬を投与するケースが少なくありません。(従来の基準を見直すことで)わたしたちは、数値を下げるためだけに処方される薬の量も減らせると考えています」と話す。
ちなみに、米国ではLDLコレステロール値が190ミリグラム未満であれば、正常値だという。
コレステロール関連の学会は二つある
一方、コレステロールの問題では日本動脈硬化学会という別の学会が存在する。1991年に日本医学会に加盟しており、会員2300人を擁する学会だ。
同学会は2007年に、狭心症などの持病がない人の場合、血中のLDL(悪玉)コレステロールが増加すると動脈硬化が起こり、心筋梗塞などのリスクとなるとし、LDLが140ミリグラム以下、総コレステロールで220ミリグラム以下に抑えるべきだというガイドラインを策定している。
これに対し、日本脂質栄養学会は「コレステロール値は高いほうがいいのではないか」と考えていた人たちがつくった学会で、ホームページにも「1970年前後から(こうした考えは)始まっている」と記している。
会員数は600人で、日本動脈硬化学会と比べると約4分の1でしかないが、「独立性」を強調。今回のガイドラインの策定を可能にしたのは「策定委員会のメンバーが製薬会社などからの研究費をもらっていないため」としている。
じつは、「高コレステロール値のほうが長生きする」ことは、1997年度に大阪府守口市が健康診断を受けた住民1万6000人を対象に行った研究でも同様の成果があった。また最近では、「欧米でも高コレステロール値が死亡率を高めることはないとの研究成果が発表されている」(日本脂質栄養学会)という。
現在、日本脂質栄養学会では、策定したガイドラインについてパブリックコメントを募集している。医師などに幅広く意見を寄せてもらい、1年後をめどに取りまとめる予定だ。日本動脈硬化学会からも意見を求めているが、「いまのところレスポンスがありません」と話している。
日本動脈硬化学会にコレステロール値の基準について聞いたところ、「2008年に開いた合同シンポジウムで示したとおり」とだけ答えた。このシンポジウムでは、「LDLコレステロールが増加すると動脈硬化が起こり、心筋梗塞などのリスクとなる。数値が低くても糖尿病や喫煙など、ほかの危険因子をもっている人がいるので、そうした患者を抽出するための基準だ」との見解を示していた。