「死者の年金」に群がる人々 不正受給発覚は氷山の一角

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   戸籍上111歳で東京の男性最高齢とされていた人とみられるミイラ化した遺体が見つかった。不思議な事がいくつも重なっている事件だが、キーワードのひとつは「死者の年金」だ。調べてみると、過去にも家族の死亡を届け出ず年金を家族が詐取する事件が相次いでいた。

   「日本中でこうしたことが起きる可能性があるかも」。情報番組「スッキリ!!」(日本テレビ系)のコメンテーター、テリー伊藤さんは2010年7月30日の放送でこうつぶやいた。番組は、東京の「111歳」ミイラ事件で、死亡男性あてに振り込まれた妻の遺族共済年金約950万円について、不正受給・詐取の疑いがあるとみて警察が捜査している、と伝えた。

家族の死亡届け出ず年金受け続ける

「111歳」事件を報じる新聞各紙
「111歳」事件を報じる新聞各紙

   謎の「111歳」加藤宗現さんと見られるミイラ化した遺体が見つかったのは10年7月28日だ。足立区職員が自宅を訪れても「(本人が)会いたくないと言っている」と長女(81)らから追い返される状態が続いていた中、孫娘(53)が警察を訪れ「祖父は三十数年前に『即身成仏したい』と部屋に引きこもった」などと話したため、事態が発覚した。

   遺体を司法解剖したが死亡時期ははっきりしない。「死後数十年が経過」「1978年ごろ死亡したとみられる」などと報じられている。

   年金詐欺の疑いが出ているのは、宗現さん名義の口座に宗現さんの妻(2004年に死亡)の遺族共済年金が10年6月までに累計約950万円(単純計算で月14万円弱)振り込まれ、すでに600万円ほど引き出されているという点だ。

   仮に宗現さんが1978年ごろに79歳ぐらいで死亡していたとすれば、2004年の妻の死亡時に受け取り手続きをし、600万円を引き出したのは誰なのかという問題が出てくる。家族に疑いの目が向けられるのはやむを得ない面がある。04年当時、妻の遺族共済年金の「受け取り遺族」の有資格者は、宗現さんだけだったようだ。勿論生きていれば、の話だが。

   宗現さんが生まれたのは、1899(明治32)年7月。日露戦争が始まる5年前だ。1930年4月1日以前に生まれた人は、老齢福祉年金(現行、年40万5800円)の受給対象者だ。原則的に70歳で支給が始まるので、宗現さんは計算上、1969(昭和44)年7月から、妻の遺族共済年金受給が始まる2004年10月までは老齢福祉年金を「受け取っていた」可能性がある。この両方の年金を同時に受けることはできないので、04年以降は額の高い遺族共済年金の方を選んだようだ。単純計算で遺族共済年金の方が4倍も多い。

   宗現さんが1978年ごろに死亡したとすると、79年ごろから2003年まで24年間程度の老齢福祉年金が詐取された疑いも出てくる。もっとも詐欺の公訴時効は7年なので、警察が04年以降の妻の遺族共済年金の方に注目しているのは当然だ。老齢福祉年金の額は以前は毎年のように改定されており、「詐取の可能性」がある24年間の累計を出すのは面倒だが、概略で計算すると、「スタート」の1979年(8 月から年額24万円)から2003年までにざっと計850万円程度を何者かが受け取っていた可能性がある。

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