米国の民間ウェブサイトが、米軍などがアフガニスタンで行っている、いわゆる「対テロ戦争」についての「機密」とされる文書9万点以上を公開し、波紋が拡がっている。対テロ戦争をめぐっては、すでに国内では「厭戦ムード」が拡がっており、アフガン・イラク戦費を含む補正予算案も、議会でかろうじて賛成多数で可決されるという有様だ。「軍事史の中で最大の情報流出に違いない」(英ガーディアン紙)だけに、今回の流出がオバマ政権にとって痛手となるのは確実だ。
情報を公開したのは、「ウィキリークス」(Wikileaks)と呼ばれる、内部告発情報を専門に集めたウェブサイトだ。過去にも同サイトでは、米軍ヘリコプターがイラクで市民を銃撃する様子を収めた極秘動画が暴露されたことがある。
パキスタンの情報機関が密かにタリバンを支援?
今回公開されたのは9万2000点に及ぶ機密文書。ウィキリークは情報源を明らかにしていないが、公表の数週間前に、米ニューヨーク・タイムズ紙、英ガーディアン紙、独シュピーゲル誌の3メディアに文書の内容を公開。3社は、同時に記事を発表することで合意したものの、それぞれに「裏取り」作業を行い、別々に記事を掲載した。
その結果、2010年7月25日に各社がいっせいに記事を発表した。そのいずれもが、アフガン戦争の「負の面」を、さらに映し出すものだ。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、本来は米国の同盟国であるはずのパキスタンの情報機関が、密かにタリバンを支援していた可能性があるという。また、タリバンは携帯熱戦追尾式ミサイルを持っているという。これらの事実は、これまで米国が公表しておらず、戦況の厳しさを米国民に印象づけることになりそうだ。
ガーディアン紙では、いわゆる「同士討ち」の事例や、米軍などが民間人を対象に攻撃した事例を紹介。文書には、「KIA(killed in action、作戦中に死亡)」「WIA(wounded in action、作戦中に負傷)」といった略語で死傷者数が記入されたことを指摘しつつ、同士討ちでの死者数や、民間人の死者数などの統計を書き込む欄については、「信頼性が低い」と報じた。
民間人の犠牲についても、比較的詳細に報じている。ガーディアンによると、「おそらく少なく見積もられている」としながらも、195人の民間人が死亡し、174人が負傷したという。具体例を見ていくと、08年には、フランス軍が子どもで満員のバスに対して機銃掃射を行い8人が負傷。米軍のパトロール隊もバスを銃撃し、乗客15人が死傷した。07年には、ポーランド軍が、ある村に対して迫撃砲で報復攻撃を行い、妊娠中の女性を含む結婚式の出席者が死亡している。
ホワイトハウスは猛反発
各メディアとも、この文書を報じるまでのプロセスを説明している。例えば、ニューヨーク・タイムズ紙は、「国家安全保障上の利益を損ねることがないように注意した」といい、3社の間では、人命や反テロ活動を危険にさらす可能性がある内容は掲載しないことを合意。具体的には、作戦に関係がある地名や、報告書に記載されている情報提供者の名前の掲載を控えるなどした。ホワイトハウスからの要請を受け、同紙はウィキリークスに対して有害な記事の掲載を控えるように求めたという(ウィキリークスは、「情報源からの要請により、1万5000点の掲載を控えている」としている)。
今回の情報公開に対して、ホワイトハウスは猛反発している。ジェームズ・ジョーンズ大統領補佐官は声明を発表し、今回流出した文書に反映されている出来事は04年1月から09年12月に発生したことで、ブッシュ前政権下のものだと強調。その上で、
「米国は、米国とそのパートナーの国民の生命を危険にさらし、安全保障をおびやかす機密情報の公開を強く非難する」
とウィキリークを批判している。