官房機密費を使って政治評論家へカネを渡した――そんな野中広務・元官房長官の証言が波紋を広げている。機密費公開の是非を巡る議論へも影響を与えそうだ。評論家だけでなく大手マスコミ関係者へのカネの流れについても追及しているジャーナリストの上杉隆さんに聞いた。
受け取るのが永田町の常識、拒否は非常識
――「機密費からマスコミへ回ったカネ」の問題で、上杉さんは、官邸秘書経験者ら数十人の官邸関係者へ取材したそうですが、浮き彫りになった実態はどのようなものですか。
上杉 例えば、記者クラブの各メディアから計10人ほどが参加する不定期の編集委員懇談会で、帰りに菓子などを渡す際「お車代」も入れ、「かつてはひとり50万円が(お車代の)相場だった」という証言もありました。盆暮れに番記者を1人ずつ呼び出し、個室で平均30万円ぐらいずつ配る、と話す人もいました。
――マスコミ側は受け取りを認めたのでしょうか。
上杉 元産経新聞政治部記者の評論家、俵孝太郎さんは、政府の様々な審議会委員を務める中、「半年に1度ぐらい、官房長官らが(日当とは別の)数十万円持って挨拶に来ることはあった」と認めました。野中さんが「断ったのは1人だけ」と実名を挙げた評論家の田原総一朗さんは「受け取るのが永田町の常識で、拒否するのは非常識」と話していました。私も、受け取っていない人の方が圧倒的に少ない、とみています。
――受け取りを否定した人もいましたか。
上杉 元毎日新聞政治部記者の評論家、三宅久之さんは、「内閣からカネをもらったことは一切ない」「野中さんからは菓子折ひとつもらってない」と否定しました。しかし、第2次中曽根康弘内閣で官房長官になった、大学の後輩でもある故・藤波孝生氏から、忙しくなったため藤波氏が講演することができなくなったので、代わりに講演してほしい、と依頼されたそうです。引き受けたら秘書が100万円を持ってきたので、「藤波のポケットマネーだと思って受け取った」とも話しました。これで「機密費を受け取っていない」というのは私には詭弁に聞こえます。
ある官邸秘書経験者は、官邸が直接渡すのとは別に、有力議員や秘書、自民党幹事長室などを経由させてマスコミへ機密費を配布していた、と明かしています。こんなことは政治の世界に長くいれば常識でしょう。官房長官もした藤波さんのカネの出元は機密費だな、とピンと来ないようでは鈍いと言われても仕方ありません。