生活保護受給者の自家用車保有を生活必需品として認めるよう厚労省に求める日弁連の意見書に、批判や疑問が相次いでいる。何かと不便な地方では買い物などにも必要というのだが、自転車やバイクじゃダメなのか、などと反発が強いのだ。
現在の生活保護制度では、原則として受給者が自家用車を持つことはできない。持てるのは、公共交通機関が少ない地域に住む障害者らが通勤や通院で使う場合などに限られている。
「交通不便な地方では、買い物などにも必要」
ところが、日弁連は2010年5月14日、車は8割の世帯に普及するなど生活必需品となっているとして、冷蔵庫やテレビ、エアコンなどと同様に保有を認めるよう求める意見書を厚労省に提出した。
それによると、特に地方では、公共交通機関が不採算を理由に年々縮小しており、車がないと通勤が困難で、就職活動にも不利になっている。また、郊外型店舗が増えて、従来の商店街がシャッター通り化しており、生活費を節約するためにも、郊外の店で食料品や日用品を買わなければならないという。さらに、都市部でも、中心部でなければ、電車やバスの本数も少ないなどとした。
意見書では、こうしたことは、受給者の最低生活保障や自立助長に結びついておらず、「生存権保障に欠ける」と指摘。生活保護法の目的に反するばかりでなく、「不当に移動の自由を制限する」と主張している。
もっとも、高価な車を認めているわけではなく、処分価値が小さい車ならいいという。具体的には、岐阜県のように、最低生活費の6か月分がいいのではないか、と提言した。例えば、生活保護受給者が多い大阪市なら、1か月の最低生活費が約12万円となるので、車の購入にかけていい額は、単身者で約72万円の計算になるというのだ。
また、意見書では、車の維持費について保護費をやりくりするのは受給者の自由だとし、任意保険料については、年金や児童扶養手当などの収入から必要経費として控除することを求めている。
自転車やバイクじゃダメなのか
日弁連の意見書については、ネット上では、賛同する声はほとんどなく、批判や疑問の声が強い。
ミクシィの日記では、ある東京都内の路線バス運転士男性が2010年5月19日、「車はぜいたく品です」とのタイトルで意見書を批判した。男性は、「年間の維持費を考えて下さいよ。燃料・保険・車検・駐車場・税金で軽自動車でも年間数十万に上ります」と指摘した。月12万円ではそれらを払わなくなるのではないか、行政がすべて免除することになるのか、という疑問らしい。そして、障害者でもないなら、「徒歩・自転車・公共交通機関で十分でしょ?」と書き込んだ。
この指摘は共感を集め、「個人的には、生活保護受給者が髪の毛を染める程度のおしゃれ(?)をするのにも反対です」「うちはお金なくて車検取るのやめたのに!今は専ら250のバイクです!」といったコメントが寄せられている。
ミクシィや2ちゃんねるの書き込みを見ると、意見書には様々な異論が続出している。
働いても車を買えない人への逆差別だ、運転できない地方の高齢者が困っているのに受給者だけずるい、といったものから、自転車やバイクではダメなのか、行政のレンタル車ならいい、受給者は都会に引っ越すべき、運転できるならタクシー会社で仕事しろ、などまで様々だ。
こうした意見に対し、日弁連の人権第一課では、「いろんなご意見があることは理解していますが、特に反論はありませんし、それによって意見書を撤回することもないです。生活保護に詳しい弁護士が何年も研究してまとめたもので、私どもの意見としてご理解していただければ」と言う。
厚労省の保護課では、意見書の提出を受けたものの、具体的にどうするかはまだ決めていないとしている。