モノが売れない背景には、そもそも「お金がないから、買えない」という現実がある。本来であればバリバリと、日本経済のけん引役として働き、消費意欲も旺盛であるはずの35歳。それが今、現状を失望とあきらめの目で冷ややかに眺めている。「35歳」の救済を訴える三菱総合研究所の吉池基泰・主任研究員に対策を聞いた。
モノを買わないのは将来への希望がもてないため
――NHK「あすの日本」プロジェクトとの共著「35歳を救え」では、転職を繰り返したあげく、職に就けない、お金がない、結婚できない、そんな「いまの35歳」が描かれています。なぜ、このような事態になったのでしょうか。
吉池 いまの35歳世代が就職活動していた当時は就職氷河期でした。企業が採用をしぼったこともありますが、団塊世代に次いで人口の多い層であり、職に就けなかった人も多かった。それでも、とりあえず働かなければ食べていけない。そこでアルバイトなどの非正規社員として働くことを選択する人が増えました。正社員になれないまま10年経ち、今度はリーマン・ショック後の不景気で、たくさんの非正規雇用者がリストラされました。
――転職を繰り返したのがよくない結果を招いた、という見方もあります。
吉池 転職が悪いわけではありません。転職を繰り返しても、自分の能力や生活のレベルアップにつながらなかったことが問題です。非正規雇用で次から次へと、渡り歩くような転職だとレベルアップにはつながりにくいでしょう。
ただ、いちばんの問題は将来展望が開けないことにあります。生活の不安から、モノを買わない、結婚しないというのも、将来への安心や希望がもてないことが大きく響いているのでしょう。35歳の実態を知るために行った1万人アンケートでは、「今のまま働いていれば、今後生活がよくなっていくと思いますか」との問いに、「あまりそう思わない」「そう思わない」と答えた人の合計が49.1%と、ほぼ半数いました。働いている人のうちの63.2%が収入の伸び悩みに不安を感じていますし、会社の倒産や解雇、賃金カットへの不安も30%を超える人が感じています。
――「自分にあった職業を見つけたい」といって、あえて就職しなかった世代でもあります。
吉池 たしかに、自分にあった仕事に就くまでアルバイトで頑張るという人はいました。夢や希望をもっているから、多少は辛抱できるのだと思います。しかし、自分が思い描いていた仕事にはそう簡単に就けない。社会に出て5年、10年も経てば、それはわかってきますが、どうしようもなくなってきた。とにかく、いまの35歳は職に飢えています。職がなく、職に就けない人はもとより、職についていても、解雇されるかもしれない不安をもっている人は大勢います。そんな35歳を、「これまで好き勝手やってきたじゃないか」と個人の責任にするにはあまりに酷ですし、社会問題として正面から取り上げないと日本の将来が危うくなるかもしれません。失業率10%超え、医療費自己負担が2倍、年金は30%カット、消費税は18%。35歳問題を放置すれば、日本は20年後そうなる可能性があります。