本来、消費が好きなはずな若者がモノを買わない。収入があっても消費しない。「嫌消費」現象と呼ばれ、25~29歳に多く見られるそうだ。なぜそうなのか。松田久一氏に話を聞いた。
ヴィトン持っているのは笑えるよね
――20歳代後半の若者はモノに興味がなくなっている?
松田 興味はあるのです。でも、これまでとは大きく違っています。従来はモノを欲しいという欲望があって、それを満足させたいと当たり前に思っていました。今の若者は欲望を抑制することに慣れていて、その方が自分らしいとさえ感じています。
人からどう見られるかに「超敏感」で、「バカにされたくない」「背伸びするのはかっこ悪い」と思っている。だから、たくさん買ったりしませんし、ブランド品は敬遠します。で、「高校時代にはやったヴィトンの財布やプラダ(を今持っているの)は笑えるよね」、なんて言い出す若い女性が出てきちゃうんですね。
――もう若者はブランド品に魅力を感じないのでしょうか。
松田 ブランドがまったくダメかというとそうではない。アイテムが豊富で少し手ごろな価格の「コーチ」は人気がありますし、宝島社の女性誌『スウィート』の付録にもなっているファッションブランド「シェル」のトートバッグを持っている若い女性もよく見かけます。「みんなが持っている」という安心感もあるようです。
いろんな分野で「ぶなん」「普通」がいいみたいです。例えば、結婚式。かつてのように数百万円をかける豪勢なものは「ありえない」というわけです。
――男の憧れの象徴だった車はどうですか。
松田 車が必要な地方は仕方がないとしても、交通の便のいい都心で、ローンを組み駐車代を払って車を持つ、なんてかっこ悪いこと。安くて燃費がいい「K4(軽自動車)」でいい。こうした意識は相当浸透しているようで、東京・六本木の交差点で若者がK4に乗っているのをよく見かけます。しかも女の子を乗せていました。昔じゃ考えられない。背伸びして車を買うのが当たり前だった世代からすると驚愕の光景です。もっとも、六本木で今もお金持ちはベンツやBMW、ポルシェといった外車に乗っています。収入に見合っているのだから、それはそれでいいと若者は考えるのです。
――今後、こうした消費行動は広がる?
松田 実は世界的な傾向なんです。米ニューヨークの記者から取材を受けた時の話です。豪華な家や車にこだわる、欲望むき出しといってもいいアメリカでさえ消費行動に変化が起きているといいます。今は日本のバブル後の消費行動がかっこいいと思っていて、日本に学べ、ともてはやされていると聞きました。
アメリカやヨーロッパでは「日本式」が共感を持たれていますが、中国や韓国はかつての日本のように「ブランド大好き」。ここを除けば日本の若者が世界の消費傾向をリードしているんじゃないでしょうか。