サッカーを「乱暴で無精なスポーツ」などと芥川賞作家が新聞コラムで書いたことが、波紋を呼んでいる。野球を持ち上げるため、半ば冗談で書いたようだ。しかし、サッカーファンらを刺激し、ネット上で熱い論戦が繰り返されている。
野球ファンとサッカーファンは、お互いを話題にするのが好きらしい。2ちゃんねるを中心に、野球をダシにしてサッカーなどを叩くのが「焼き豚」。対して、サッカーをダシにして野球などを叩くのが「サカ豚」あるいは「酒豚」と呼ばれている。
サッカーを「乱暴で無精なスポーツ」
この両ファンを刺激したのが、芥川賞作家の辻原登さん(64)が毎日新聞に書いたコラムだ。
2010年4月11日付朝刊の「今週の本棚」で、「週刊ベースボール」を読んだ感想をつづったものだ。そこで、辻原さんは、好きな野球と比較して、サッカーについて、次のように書いている。
「蹴球(サッカー)ほど乱暴で不精なスポーツがあるだろうか。考えてもご覧なさい。手を使わず、足で蹴(け)るだけのスポーツなんて!」
そして、「その対極に野球はある」というのだ。
これ以上、野球とサッカーを比較した部分はないが、2ちゃんねるやブログでは、このコラムをネタに「焼き豚」対「サカ豚」が蒸し返している。
コラムに批判的な声としては、2ちゃんでは、こんな書き込みが。「焼き豚のイタさは異常」「乱闘とか報復死球とか野球の方が余程乱暴だと思うのだが…」「野球は世界の中ではマイナーなスポーツw」。
一方、コラムに味方する声もある。「サカ豚悔しいの?」「アホーターやフーリガンの暴力的なイメージもマイナスだな」「世界で注目されてなくても将棋の羽生は偉大だろ」といったものだ。
これに対し、辻原さんは、取材に対し、「ネット上では、発言などはまったくしていませんので、ネットメディアの取材には答えられません」とだけコメントしている。
比較したのは半ば冗談?
辻原登さんのコラムでは、野球とサッカーを比較した後に、週刊ベースボールを読んだ感想が書かれている。そこで辻原さんは、元西鉄選手の豊田泰光さんのコラムを取り上げ、その中からグラブトス、バックトスの練習のため左手のキャッチボールを繰り返したエピソードを紹介した。
コラムの真意は不明だが、野球には、手を器用に使う面白さがあると言いたかったのだろうか。サッカーと比較したのは半ば冗談らしく、それ以外の他意はないのかもしれない。
野球ファンとサッカーファンは、機会あるごとに、お互いを話題にしている。
例えば、週刊プレイボーイが2010年1月18、25日号で、ドイツリーグで活躍中の長谷部誠選手のインタビューを載せたときだ。長谷部選手が、チームメイトから「野球って何?」と言われたエピソードを紹介すると、2ちゃんのスレッドでは、「焼き豚」対「サカ豚」のバトルが盛り上がった。このスレは、15以上にまで伸びている。
こうまでバトルが続く背景には、世代間の代理戦争という面もあるようだ。日本では、ポピュラーになるのは野球が早く、サッカーは比較的最近だ。コラムを書いた60代の辻原さんは、長嶋・王がいたプロ野球の黄金期を体験しているだけに、よけい思い入れが強いのだろう。
今回コラムが話題になったことについて、毎日新聞社の社長室広報担当は、「悪意はなかったにしろ、サッカーファンに誤解される表現だったことを、ご理解いただきたく存じます」とコメントしている。