「一族という安定株主がいたからこそ、長期的な視野で事業できる」
寿が新会社株の3分の1以上を持つ大株主になることを前提に始まった両社の交渉だが、キリンの加藤社長には09年夏ごろから、OBや三菱グループ企業から、寿が実質的な経営権を握ることになるのではないかという懸念が寄せられており、影響力を極力抑えたいというのが本音だった。加藤社長は、寿の持ち株について、議決権のない優先株にすることや、新会社で買い取ることを打診したが、佐治社長からは「欲しいのはカネではない、と拒否されていた」(関係者)という。
佐治社長は加藤社長への最後の手紙で、非上場を貫いたサントリーの歴史を振り返り、短期的な利益にこだわらない安定株主がいたからこそ、長期的な視野で事業ができ、「やってみなはれ」に代表される自由な社風や強いブランド力を生み出したと力説した。
しかし、それはサントリー創業一族が声高に経営に介入はしないまでも、「物言わぬ株主」には甘んじないという宣言でもあった。売上高でキリンの3分の2にとどまるサントリーの創業一族が統合新会社の「影のオーナー」になれば、既存のキリン株主からは「小が大を飲む統合」と受け取られかねない――そうしたキリン側の懸念が、最後まで越えられない障害になったようだ。