長引く不況で買い控えが進み、消費全体が冷え込んでいる。飲料市場も例外ではない。ところが、缶コーヒーやミネラルウォーター、果汁飲料の販売が伸び悩む一方で、炭酸飲料、それも透明炭酸飲料は好調だ。「ひとり勝ち」の理由は、どこにあるのだろうか。
飲料市場全体が落ち込んでいるにもかかわらず、炭酸飲料市場は成長している――。調査会社・富士経済は、2009年10月29日に刊行した「2009年 清涼飲料マーケティング要覧 No.2」の中で、こう指摘した。
飲料市場は縮んでも、透明炭酸飲料は絶好調
調査は、飲料の需要が最も高まる夏季の結果を踏まえて市場動向をとらえたもの。09年は景気の低迷に夏場の天候不良が重なったことから、飲料市場全体で前年比1.3%減の4兆9433億円(見込み)となり、2年連続のマイナスを記録した。大手小売チェーンのプライベートブランド(PB)製品が増えて価格競争が熾烈になる一方、自動販売機での販売が苦戦したことも、市場低落の要因となった。
ところが、炭酸飲料に限れば06年以降安定して市場は拡大。09年も前年比5.4%増の5761億円(同)と報告されている。中でも透明炭酸飲料は、前年比12.8%増と飲料全体では「超優等生」だ。
調査によると、09年は「復刻堂ウルトラサイダー」(ダイドードリンコ)や「天然水サイダー」(伊藤園)をはじめとした新商品が市場に投入され、消費者の支持を集めた。また「三ツ矢サイダーオールゼロ」(アサヒ飲料)のようにカロリー、糖質、保存料ゼロをうたう商品がヒット。安価なPB製品が出回っていても、健康志向の高まりで「サイダーが飲みたい、でもカロリーが気になる」という購買層にうけたようだ。
コーヒーのように自分で入れたり、果物を絞ってジュースにしたりというように、炭酸飲料は家でつくることができないことから、「需要は根強い」と調査では結論づけている。
不況でも売れるのは「サイダー男子」のおかげ?
景気に左右されない「透明炭酸飲料人気」を支えるのは誰か。アサヒ飲料が10年2月9日に発表した「イマドキ男子・かつての男子消費行動調査」では、その手がかりが見られる。
20代の「イマドキ男子」500人と30・40代の「かつての男子」500人ずつにアンケート調査を実施。「イマドキ男子」と「かつての男子」の間には、消費行動(ライフスタイル、価値観)や炭酸飲料の好みについて意識の違いがあることがわかった。
「かつての男子」は、1960~79年生まれ。バブル経済から2000年初頭に20代を過ごした世代で、なりたいと思った男性像は「かっこいい人」。自動車への関心も高く、車を買い、ドライブを楽しんで夏はビーチ、冬はスキーに出かけるのを好んだ。デートや旅行、レジャーにお金をかけ、衝動買いすることも頻繁だった。これに対して「イマドキ男子」は、80~89年生まれ。現役20代の彼らは、飾ることを嫌い、自分らしさを大切にして「自然体な人」を目指すという。外出よりも家で過ごすのが好きで、車への興味は薄い。主なお金の使い道は貯金や貯蓄。良い品を安く買うために比較するなど、買い物に対する姿勢も堅実だ。
ところが、おもしろい共通点があった。それは「好きな飲料」。「かつての男子」、「イマドキ男子」両世代とも90%以上の人が、好きな飲み物として炭酸飲料を挙げていたのだ。
ただし、炭酸飲料の好みも世代間で変化していた。「かつての男子」が、炭酸飲料に「キツさ」「パワフルさ」「濃さ」を求めるのに対して、「イマドキ男子」は「品質のよさ」「安心・安全」を重視。さらに、日本の夏に合っている飲料について、「かつての男子」の1位は「コーラ飲料」だが、「イマドキ男子」は「サイダー飲料」がトップだった。
モノが売れない時代でも、右肩上がりで売れ行きを伸ばす透明炭酸飲料。その理由は、透明炭酸飲料のイメージが「イマドキ男子」に近いことがヒントになりそうだ。
「コーラ飲料」「サイダー飲料」のイメージを両世代に聞いたところ、「コーラ飲料」のイメージの特徴は「濃い、主張が強い、ワイルド、強い、かっこいい」。これに対して「サイダー飲料」は、「さわやか、自然体、純粋、ほどよい」という結果だった。
これは、それぞれの世代がなりたいと思った理想像と重なるところが多い。カッコよさを追求した「かつての男子」は、「強くてかっこいい」「コーラ飲料」がしっくりくるが、自然体を目指す「イマドキ男子」にとっては「自然体で純粋な」「サイダー飲料」が理想のイメージに合うのではないだろうか。
透明炭酸飲料の市場が近年も好調なのは、自分の理想像を思い浮かべてつい「サイダー飲料」に手を伸ばす、若い「サイダー男子」のおかげかもしれない。