制作会社なくなったら 誰が番組作るのか
(連載「テレビ崩壊」第7回/制作会社団体会長・澤田隆治さんに聞く)

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   テレビ番組を制作しているのはテレビ局だけではない。テレビ局が日々大量に番組を流すことができるのは、番組制作会社の存在があってこそ。ところが、テレビ局に比べて制作会社の労働条件は劣悪だといわれる。それが捏造など問題を生み出している、との指摘も根強い。約50年にわたって娯楽番組の演出に携わり、現在では制作会社を束ねる「日本映像事業協会」(J-VIG)会長の澤田隆治さんに、制作会社とテレビ局との関係について聞いた。

制作会社とテレビ局との関係について語る澤田隆治さん
制作会社とテレビ局との関係について語る澤田隆治さん

――最近になって、「制作会社がテレビ局にいじめられている」という訴えが増えています。なぜでしょうか。

澤田 テレビ番組を、すべてテレビ局の社員が作っていた時代がありました。私もテレビ局の社員として番組を作っていました。ところが、テレビ局の将来ビジョンを考えて外部のスタッフを入れるようになった。このまま社員だけでやっていると大変なことになると気がついたんです。メイクや衣装などから、専門の会社を作らせて、外注するようになった。残業やストなど局員の労働問題もあった。そうしているうちに、聖域であったはずの技術や、最後まで「局が育てる」と言い続けてきたディレクターまでが、外注されるようになったんです。これが1970年代の話。「局にも番組制作機能を残しておかないとまずい」こともあり、局と制作会社とで競い合わせるようにした。我々は、「局に負けないように後進を育てないといけない」という使命感がありました。おそらく、局の側も同様だったと思います。いい時代でした。

――では、どうして状況が暗転したのでしょう。

澤田 ここへきて、局側に経営上の問題が出てきたんです。15年ぐらい前から番組制作の外注率が増えて、局は、「放送枠を持って、それを管理さえすればいい」という考え方になってきた。局の幹部の方たちが「局と制作会社はイコールパートナー。局の視聴率も営業成績も、みんなあなた方次第です」と言ってくれたものです。これが、5年前ごろから大きく変化してきた。
局側は、「そんなこと言ってたかな」という感じ。契約も変えるし予算もカットする。「イコールでなくてもいいけど、今、僕らがいなくなったら、誰が番組作るの?」とたずねたい思いを実際にテレビ局の人に投げかけたことがあったのですが、帰ってきた答えは、「澤田さん、昔のことを言わないでください」。2年前に私たちのJ-VIG で「10年後TVは誰がつくるのか」というスローガンを掲げたのですが、この分では5年ぐらいしかもたないのではないでしょうか。

――局の業績悪化のしわ寄せが制作会社に来ている、ということですか。

澤田 局の頭のいい人が、局の体制を守りつつ、利益を上げ続ける仕組みを作り上げてしまった。力のあるプロダクションは200社以上もあるのに、連帯しないから局側に撃破されてしまう。放送権やビデオ化権を取り上げられたり、請負だったものが派遣になったり。制作会社にとって、どんどん条件が不利になっている。
そこへ起きたこの不景気風で一気に増大したテレビ局の赤字のしわ寄せが、制作会社に来ている。国策とはいえ、民放BSが赤字を埋めていれば、不景気になれば本体が赤字になるのは当然ですよ。

左遷が怖くて、役員に直訴する局員はいない

――関西テレビの「発掘!あるある大事典II」捏造問題でも、制作会社とテレビ局との関係がクローズアップされました。「経費が少ないことが捏造につながった」との指摘もあります。

澤田 全然違いますね。あれは、番組作りのプロセスがおかしかったからです。沢山番組を作るためには、全部社員でつくったのではコストが合わない。給料の安い制作会社の人間を使うしかありません。彼らは取材経験もロクにありません。ただ、それは責任を取ることになっている局のプロデューサーも同様で、現場経験が少ないから勘で「これはOKかダメか」という判断を下さざるを得ない環境です。だから、プロダクションを使うこと自体は悪いことではなくて、放送責任のある局がきちんと管理・チェックできる体制が出来ていないことが問題なんです。「あるある」の場合、制作会社のチーフプロデューサーが非常に経験のある人で、「この人がダメというならダメだし、OKというならOK」という空気で、局の人も立ち合っているという感じ。末端の現場の作為を見抜けないまま、捏造された内容が放送されてしまった。

――「予算が安かった」という指摘もありますね。

澤田 僕はあの枠を10年以上やっていましたが、当時は1100万円で完パケ(そのまま放送できる状態にすること)でした。問題になった「あるある」の取材では、素材VTRだけで800万円だということです。今では、「100万円で完パケ」という番組もざらです。800万円というのは、ものすごい金額なんです。物価も上がってません。捏造問題は、テレビ局による搾取が原因ではなく、モノづくりの心の問題をないがしろにしてきたツケが廻ってきたと考えた方がいい。日本テレビの「バンキシャ!」の虚偽証言の問題も同様の構造だと思っています。

――2009年3月に、局側に対して「下請けいじめ」などを禁じる、総務省のガイドライン「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」が出来ましたよね。どのように受け止めていますか。

澤田 局に対する抑止力になると思います。我々の立場からすれば良くできていますし、確かに助かります。重要なのは、あのガイドラインを公正取引委員会が見ている、ということです。「優越的地位の濫用」があれば、公取に訴えることができるというのが、これまでとの大きな違いです。

――コンテンツの制作力をテレビ以外に振り向けていく、という方向性については、どのようにお考えですか。現実味はあると思いますか。最近では、「BeeTV」などのケータイ向けコンテンツが好調です。

澤田(USENがヤフーに売却した動画配信サイト)ギャオ(Gyao)もそうですけど、どこもソフトづくりにカネを出さない。マーケットがないんですよ。IT企業は、ソフトをつくっている現場よりテレビ局が放送しているソフトにしか興味がないのではないか。テレビ会社と組めば、制作会社は自動的についてきますからね。

――今後、制作会社を取り囲む状況は、どのように変わると思いますか。

澤田 いま「こんな状況で、今後、どうするんですか?」とテレビ局に問いかけているところなのですが、良い変化が出てくることを願うばかりです。でも、現場で番組をつくっているテレビ局のプロデューサーは、上の命令で、目の前のコストカットをするだけで手一杯のように見えます。以前は「これ以上予算削ったら番組ができません!」と役員に直訴する局員もいたのですが、今の人は仕事を失うのが怖いのかおとなしいもんです。

澤田隆治さん プロフィール
さわだ たかはる テレビランド代表取締役社長、日本映像事業協会会長。1933年大阪生まれ。神戸大学文学部卒業後、朝日放送に入社。ラジオプロデューサーからテレビのディレクターとなり、「てなもんや三度笠」「スチャラカ社員」などのヒットを生む。その後、「新婚さんいらっしゃい!」などを企画、新しいトークショウの分野を開拓した。75年東阪企画設立、「ズームイン!!朝!」「花王名人劇場」などを立ち上げ、漫才ブームの仕掛け人となる。2001年より帝京平成大学教授として、「笑い学講座」を立ち上げ、06年「笑いと健康学会」を設立。現在もお笑い界のドンとして、新企画のプロデュースに精力的に取り組んでいる。著書に「決定版 上方芸能列伝」 (ちくま文庫) など。

姉妹サイト