テレビ局はこれまで、「誰かに買収されることはありえない」と信じてきた。それが幻想だと分かったのが、2005年のライブドアによるニッポン放送の買収騒動だ。当時はフジテレビの筆頭株主はニッポン放送だったため、「ニッポン放送を買えばフジテレビも手に入る」という仕組みだった。元ライブドア社長の堀江貴文さんに、「テレビ局を買う」ことの狙いについて聞いた。
ニッポン放送買収は「ライブドアのPV上げるため」
――堀江さんが一気に世間の注目をあびたのは、ニッポン放送の経営権買収をめぐる動きがきっかけ。そもそも「テレビを買う」目的は何だったのでしょうか。
堀江 ライブドアのページビューを上げることが目的です。番組中にライブドアのURLをずっと表示する、といったやり方で、徹底的に、テレビのユーザーをネットに持ってくる。「ネット無しにはテレビは見られない」くらいにしたかった。フジテレビというのは、リーチで言えば、ほぼ100%。「1か月間フジテレビをほとんど見ない人」はまれです。買収でリーチ100%になればヤフーを超えられる。つまり、ナンバーワンになれる。その成功モデルを海外に持って行けば世界でナンバーワンになれる、という単純な発想なんですけれど。みんな、「なんだ、そんなことか」って言う。でも「みんな、やってないじゃん!」と言いたいですね。
――買収が成功した際、番組の内容は、どのように変えようと思っていましたか。
堀江 徹底的に、人をネットに持ってくるんです。クイズ番組なんかがそうですけど、「とにかく、ネットに繋がないとダメ。参加できない」みたいな。ニコニコ生放送でも、画面の中に投票機能が付いてたりします。実は、それと同じようなことを、テレビ東京のモバイルサイトを請け負っていた時に実現していたんです。番組の中で例えば「小泉政権に期待する・期待しない」みたいなアンケートをとって、ケータイで投票してもらうようなことをやっていたのですが、それでテレビ東京モバイルの会員数が激増しました。7~8年前の話です。それを徹底的に、全番組でやりたかったんです。テレビ東京のサイトを作っていた会社、後に「テレビ東京ブロードバンド」として東証マザースに上場するのですが、その原動力は僕の仕事だったと思っています。2~3万人だった会員を、社長に「10万人にしろ」って言われて、10万人にしたんですよ。
当時を振り返ると、テレビのディレクターはネットのことを馬鹿にしていて、何の協力もしてくれない。非常に苦労しました。でも、テレビ局を買収して、社命で「グループのネット環境にお客さん呼び込め」ってやれば、一気に実現できるでしょう。フジテレビで言えば、ディノスも、テレビ通販で「ネットを利用したら2割引」という形で活用するとか。彼ら(テレビの人)は面白いコンテンツを作るプロなので、出来るはずです。そうしたら、ヤフーを超えるサイトになれるだろう、と。これって、彼ら(テレビ局)のためにもなると思うんです。
――テレビだけでは儲からない、と考えていた?
堀江 テレビはベースとして莫大なお客を持っている。それをいかにネットに誘導するかが大事だと思った。テレビは斜陽産業ですから、広告費は落ちていく。それを埋めるのはネットしかない。当時でも、スポットCMから減っていくし、最終的には番組提供枠も「割高」ということで減っていく、と予測していた。細かいことまでは考えていなかったのですが、今回の世界同時不況で、この方向性は加速しました。当時経団連会長だった奥田さん(奥田碩・トヨタ自動車相談役)と会ったとき「フジテレビみたいな、あんな下品な番組作る局には広告出さーん!」って言ってましたしね(笑)。それは本音だと思う。CMの出稿量も減る、番組経費も切り詰められて、番組がつまらなくなる。当時から分かっていたことです。この悪循環を避けるために、ネットとの連携が必要なのです。ネットの広告収入を上げて時価総額も上げて、資金調達できるようにしておく。それによって、番組制作予算が増える。良いコンテンツが作れるようになれば、広告収入に頼る必要はなくなります。自社ですべてやれるようになる。
これを実際にやっているのがNHK。ドラマの質がどんどん上がっています。予算を使いまくっているから、ドキュメンタリーも良いのが沢山できる訳です。さらにそのDVD売って収益をあげている。映画の製作までやってるなんて、昔は考えられなかったことです。
――ただ、買われる側の反発は、すさまじいものがありました。「買収後は編集権に介入するのでは」という声もあったようです。
堀江 意外でした。「こんなにいい提案してるのに何で?」って。編集権への介入なんて、そんなことしても、何の役に立たないじゃないですか。やりもしないことを「やるんじゃないか」って疑われても、こっちとしては「やりません」としか言いようがないです。予算を逆に増やす方向で考えてるのに、「何怖がってんの、何言ってるんだろう、この人たち」って思いますよね。