鎌倉彫刻の巨匠運慶の作と見られる「大日如来座像」の競売が2008年3月18日、ニューヨークの競売会社クリスティーズで行われ、日本の大手百貨店「三越」が1280万ドル(約12億7800万円)で落札した。日本の美術品としては過去最高額で、仏像としても世界最高の金額だという。三越本社広報部では、「日本国内のお客様からの依頼で落札した。個人情報なので詳細は言えない」と説明している。
運慶は鎌倉初期を代表する仏師で、東大寺南大門の仁王像など作品の多くが国宝や重要文化財に指定されているが、大日如来座像は文化財の指定を受けていない。そのため、文化庁長官の許可なく指定文化財の国外への持ち出しを禁じた「文化財保護法」が適用されなかった。クリスティーズ社によると、国宝級の座像が競売にかけられるのは珍しいという。
「買い取りは、金額面で折り合いがつかなかった」と文部科学省
座像の高さは66・1cm。古美術商から購入したという元の所有者が東京国立博物館に調査を依頼し、エックス線撮影により像内には運慶の作品に多く見られる特有の形の木札や水晶塔などが収められていることがわかった。
かつて座像が置かれていたという寺がある栃木県足利市では、地元市民が署名活動を実施。座像の海外流出を阻止するよう求めた。文部科学省の担当者は、「文化財に指定するには事前調査が必要となる。調査のため、元の所有者から買い取ることを申し出たが、金額面で折り合いがつかなかった」と、経緯を明らかにした。
足利市役所文化課の担当者は、「オークションという形式を取られたことが残念。座像の調査も十分になされておらず、市民に公開される機会もなくなってしまう」と残念がっている。
今回のオークションで日本の美術品への注目が高まり、個人が所有する国宝級美術品が海外に流出することを危惧する声も上がっている。