メタボリックシンドロームの基準をめぐって論争が巻き起こっている。「男85センチ、女90センチ」のウエスト基準などに専門家から「健康な人を病人に仕立てる」との厳しい批判が出ている。08年春から「メタボ健診」が始まると、年間数兆円の医療費が増える恐れすらあるのだ。
男性94%、女性83%は「何らかの異常指摘される」
メタボを解説する厚労省のHP
腹囲(へそ周り、ウエストサイズ)「男85センチ以上、女90センチ以上」が「内臓脂肪の蓄積」を表すという国内基準が決まったのは05年春だ。日本肥満学会など8学会が共同で公表し、厚労省HPにも掲載されている。身長は問題にされていない。この「男85センチ~」イコール「メタボ」ではなく、「男85~」に加え、ほかの中性脂肪数値など3項目中2項目以上があてはまると「メタボ」と診断される。その手前は「予備軍」という訳だ。腹囲は診断の「出発点」という重要な位置付けとなっている。
08年度からは「特定健診・保健指導」という新しい健康診断が始まる。腹囲測定が健診項目に加わる「メタボ健診」だ。40歳以上74歳以下の約5,600万人が対象だ。新制度では企業の健保組合などに生活習慣の改善指導が義務付けられる。現行健診は「要検査」などのお知らせがあるだけだったが、新健診では「検査に行きましたか」などの「指導」も健保組合からされることになる。
「男性の94%、女性の83%は何らかの異常を指摘される」。新健診導入とメタボ基準について、こんな試算をしたのは東海大医学部の大櫛陽一教授(医学教育・情報学)だ。日本総合健診医学会の健診データから「メタボ健診」対象の年齢層の5万人分を検討した。さらに受診した男性の6割、女性の5割は医療機関の受診を勧められると見ている。ほかの学会の試算でほぼ同様の結果が出ている例もあるという。勧められた全員が受診すると診察料だけで年間5兆円の医療費が「純増になる」という試算も出た。検診によって将来病気になる人が減り医療費削減につながるというのが厚労省の「試算」だが、大櫛教授は「医療費はかえって増える。健康な人を病人に仕立てるだけだ」と厳しい見方を示す。
J-CASTニュースが取材した大櫛教授によると、そもそもメタボは病気ではなく、生活習慣の改善目標値に過ぎない。米国の場合、例えば心疾患予防と糖尿病予防とでは、メタボと病気との関連度合いも基準数値も異なる。同じメタボという言葉でも、日本と海外とでは使われ方が異なっているという指摘だ。
男性の腹囲85センチという日本の基準は、中高年の平均値とほぼ同じで「半数を患者に仕立てるために初めから結論ありきだったのでは」と疑っており、「患者が増えれば専門医と製薬業界が潤います」と「背景」を「解説」した。「メタボ」の人の中でも、「本当に」病気につながる「大メタ(ボ)」は対象年齢層の1%に満たないわずかの人たちで、残りのほとんどの「ちょいメタ(ボ)」は「むしろ健康な傾向にあると考えていい」。