いま、小型で低価格の手軽な航空機ラジコンが、ちょっとしたブームを呼んでいる。従来は動力にエンジンを使用する重厚長大な機種が主流で、価格は最低で数万円~。いざ飛ばそうにも広い空間が必要だった。しかし、この数年で電動ラジコンが普及するとともに、小型化・低価格化が一気に進んだ。「室内向け」「インドア」を謳うものも増えている。
闇夜を照らすサーチライトは、コントローラーでON/OFFが可能だ。
大手ラジコンメーカー「タイヨー」が販売する「マイクロマスターHG」シリーズはそうしたトレンドを代表する機種のひとつ。手の平に乗るサイズのヘリコプターで、実売1万円を切る。昨夏の発売以来、1年間で約15万台を売り上げるという「予想を上回る大ヒット商品」(同社広報)になっている。
低価格化の理由を聞くと、「機体の素材や電池など、各パーツのコストダウンを積み重ねた」のだという。その一方で、画期的な新機能も盛り込んだ。マイクロマスターHG以前の低価格ラジコンヘリは、「前進」ができなかったのだ。上がったり、下がったり、左右に向きが変えられるだけ。あるいは、機体に重りを載せ、重心を変えることで前進させる。後者の場合はホバリング(空中停止)ができず、やはりヘリの挙動を再現したとは言えない。そこで、国内メーカー初の「マグネット機構による前進機能」を開発、搭載した。コントローラーを操作すると、機体のマグネットがせり上がり、ローターの前方部を引きつけて、前傾姿勢を取らせる仕組み。前進とホバリングというヘリ型ラジコンの醍醐味を両立させた。
中高生向けで企画したものの、実際の購入層は圧倒的に30~40代の親世代
計9個のLEDが点滅・点灯するヘリポート。夜間着陸の雰囲気を醸し出す。
今年7月中旬には二代目となる「マイクロマスターHG2ナイトクルーザー」が登場した。「ナイトクルーザー」の名に相応しく、機体にはLEDのサーチライトを搭載し、進入灯付きのヘリポートが付属するのも新たな趣向だ。室内を暗くすれば、夜間飛行の臨場感が味わえるというわけだ。リチウムポリマー電池を採用し、気になるバッテリーの持ちも約5分間(約50分充電)と若干伸びた。発売から1ヶ月半で約3万台を売り、楽天市場の売り上げランキングでラジコン部門の1位になるなど、こちらも好調に売上げを伸ばしている。
先代と比べると、ローター形状の研究や、モーターの回転数を向上させたことで「よりパワフルで安定感のある飛行」を実現したという。同機の開発では、約1年前に導入された最新の3次元CADシステムを活用し、スピードアップとコストダウンを図った。ただし、CADで設計しても、いざ飛ばしてみるまでわからないのがラジコンヘリ。フライトの安定性のキーとなるローターの長さや角度などは「トライ&エラーの繰り返しで、苦労しながらベストなセッティングを探した」そうだ。
さて、実際に"クルーズ"を楽しんでいるのは、どんな人たちだろうか。同機の企画段階では、中学生高校生向けの手軽な入門機という位置づけだった。ところがフタを開けてみると、「圧倒的に多かったのが30~40代のヤングパパ、ホビー好きの男性」だった。小型で値段が手頃なせいもあり、複数の機種をコレクションしていたり、子供にせがまれて買いに来た父親がハマってしまうケースも多いという。
大きな円形の安全リングで、上下のローターを保護する。
少子化などの影響で、子供向けラジコン市場は低迷傾向にあると言われる。「タイヨー」も、もとは太陽工業のラジコン事業部門で、業界内では老舗。トイ(玩具)系と呼ばれる低価格帯のラジコンには定評があった。しかし、営業赤字がかさみ、2月にセガトイズに売却。新会社「タイヨー」として再出発した経緯がある。厳しい状況のなか、子供向けに開発されたマイクロマスターHGは大人の興味を惹き、一躍スマッシュ・ヒット。新会社を支える"柱"の商品となった。同社では引き続き、「玩具でありながら大人の趣味にもなりえる、手軽で飛ばしやすいラジコン」を世に送り出していく構えだ。
秋の夜長、ふと空いた時間に飛ばして遊べる――そんな小粋な玩具を手元に置くのは、きっと悪くない。