景気拡大を背景に高い水準で推移してきた電機大手メーカー各社の設備投資が、ここにきて計画の修正を迫られ始めている。
これまでの強気の投資は、薄型テレビやDVDレコーダーなどデジタル家電の市場が順調に拡大し、価格が堅調に推移すると見越してのことだった。ところが2006年の年末商戦では、デジタル家電の価格下落が予想以上のピッチで進んだ。このため、パイオニアと日立製作所がプラズマテレビのパネル工場の建設延期を表明。半導体でも東芝と富士通が、新工場建設や設備増強を見送った。
パイオニア、東芝、富士通と延期
パイオニアは、プラズマからの撤退を否定
投資見送りの動きが拡大すれば、民間部門の設備投資をけん引役として拡大が続いてきた国内景気の先行きにも 影響を与える可能性がある。
パイオニアは新パネル工場の建設を計画し、30億円で山梨県内に土地を購入済みで年内着工の予定だったが、年末商戦での苦戦を受けて当面延期する方針を07年1月末に表明した。日立は、昨年中にも発表するとしていた国内での新パネル工場建設について、2月5日の06年10~12月期連結決算発表の記者会見で「テレビは数量ではなく質で勝負する。工場は慎重に検討する」(三好崇司副社長)とトーンダウンした。
半導体でも事態は動揺だ。「価格下落が年間7割と予想以上だった」として、東芝が07年1月末、携帯音楽プレーヤーやデジタルカメラの記憶装置に使う半導体「NAND型フラッシュメモリー」の国内新工場着工を半年延期すると表明した。富士通は、三重県で07年4月にLSI(大規模集積回路)新工場の最先端生産ラインを稼動させるのだが、月産1万枚体制を構築する時期を当初計画の07年度末から08年度以降に遅らせる方針だ。
サッカーW杯と北京五輪のはざまで苦しい
年末商戦での大幅な価格下落は、内外メーカーの競合で販売競争が激化した一方で、需要が業界の期待ほどに伸びなかったことが要因と見られている。「年末商戦の伸びは予想ほどではなかった。デジカメもDVDレコーダーも厳しい」(富士通幹部)という。06年のサッカーW杯と08年の北京五輪にはさまれる今年は、大きな需要盛り上げ要因がない。価格下落の傾向がさらに続いた場合、投資減速の動きは家電大手にとどまらず部品、素材などすそ野産業に拡大する可能性もある。
価格下落に耐えるには、生産設備増強などで生産コストを引き下げる選択肢もある。実際、プラズマで国内独り勝ちの松下電器産業は、2,800億円を投じて09年に新工場を稼働させ、生産能力を4倍に増やす計画だ。しかし、市場シェアの低いメーカーがこの動きに追随するのは難しい。パイオニアも日立もプラズマからの撤退は否定しているが、追加投資を止めれば、それだけ生き残りが難しくなりそうだ。