日産自動車が、北海道の陸別試験場内に国内最大級の高速周回曲線路を完成させた。この新たなテストコースは、グローバル市場に新型車を送り出す日産が、品質を守るために用意した砦とも言うべき施設。どの自動車メーカーも、テストコースを利用した車のつくり込みが大きな課題であり、日産だけでなく、トヨタ自動車やホンダ、マツダも新テストコースの建設に動き出した。
開発の現場は、販売地域の拡大や新型車開発数の増加、環境や安全に対する先進技術の開発スピードの加速などに、従来型のテストコースだけでは対応しきれない状況にある。グローバルメーカーへと成長した日本勢が、今後の開発競争を勝ち抜くには、新型車開発で最終的な試験を行う新たなテストコースが必要不可欠となってきた。
実際の高速走行時の環境を再現したのがミソ
日産が完成させた北海道のテストコース。他メーカーも建設に乗り出す
これまで自動車メーカーが持つテストコースは、バンクがある楕円形の高速周回路や、雪道を想定した直線低ミュー路、世界の代表的な都市の路面を再現したコース、ラフ&オフロードコース、耐寒試験コースなどがある。高速走行に対応したテストコースは高速周回路のみだが、高速道路のカーブにはバンクがあるはずは無い。実際の高速走行時の環境を再現したテストコースは国内には存在しなかったのだ。
日産が完成させた高速周回曲線路は、アウトバーンを模した1周8.1キロのコース。アウトバーンにこだわったのは、世界で一番厳しい走行環境だからだ。時速200キロを超える速度域で走行可能な道路は他にはなく、欧州市場で新車を販売するには、アウトバーンを走ることを想定しなければならない。そこで多くのメーカーが、高速周回路で高速走行試験を行った上で、開発の最終段階はアウトバーンで走らせて調整するようにしている。
日産は高速周回曲線路の標識やガードレールをドイツから輸入し、舗装面もアウトバーンと同様の凹凸をわざわざ再現して、右側走行とした。これほど凝ったつくりにしたのは、テストドライバーが違和感無くアウトバーンを走行でき、ドイツでのテストが予定通りの期間で終わるようにするためだ。
アウトバーンでの走行試験では成果がなかなか得られない
どのメーカーもそうだが、アウトバーンでの走行試験は、開発者が思うようなレベルの成果がなかなか得られないことが多いという。調整だけでは済まず、走行試験が予定した期間を大幅に過ぎるのは良くあること。だが場所が海外では応援部隊もすぐには駆け付けられず、無駄な時間が過ぎることもある。だからこそ日産は、ドイツに乗り込む前に、しっかりとつくり込みが行える自前のアウトバーンを造ったのだ。
他のメーカーもテストコースの新設には大きな関心を寄せている。トヨタは豊田市と岡崎市の境に国内4番目のテストコース建設を検討。ホンダは栃木県さくら市に国内3番目のテストコース建設を決め、マツダは2月に買収した山口県の美祢自動車試験場を改修する計画だ。各社とも走行試験のインフラを整備し、自動車の進化のスピードが速まる中で、日本車の優位性である品質と先進技術を維持しようとしている。