九州地区にトヨタ、日産などの系列部品メーカーが続々進出している。将来は韓国や中国メーカーへの販売も視野に入れているのは間違いない。とりわけ成長めざましい現代自動車に狙いを定めている。それに、トヨタが不快感を示している。トヨタ系の部品メーカーに「現代には部品売るな」といいかねないのだ。
マツダの防府工場(山口県)。九州・山口地区の工場は、アジアへの玄関口だ
九州は近年、自動車産業の集積化が加速し、いまや「カーアイランド」になったといってもおかしくないほどだ。 軽・小型車メーカー、ダイハツ工業グループの新工場(大分県)が2005年に本格稼動を始め、域内生産台数は05年度には90万台と、国内総生産台数のおよそ1割の水準に達した。トヨタ自動車も九州工場(福岡県)の能力増強に踏み切り、年産能力50万台の日産自動車九州工場やマツダの防府工場を合わせ、近い将来総生産200万台に迫るのは確実と見られる。
さらに、現代自動車などの自動車生産拠点が控える韓国東南部(域内生産165万台)にも近い。
トヨタ系部品メーカーが現代自動車に部品供給
こうしたことから、部品メーカーの進出にも拍車がかかっている。電装品トップのデンソーも、200億円を投じて北九州にエンジン部品工場を新設、06年末から燃料噴射装置の生産に着手する。00年以降に九州に進出した部品メーカーは累計で50社を超えた。トヨタ系列の部品会社や協力会社の場合、九州に進出しているのは3割程度。今後、自動車生産台数の伸びが加速するに従って「トヨタ系はまだまだ増える」というのが、関係者の一致した見方だ。
進出するトヨタ系部品メーカーも現代自動車への供給を当然視野に入れている。ところが、これがトヨタにとって問題なのだ。
トヨタは世界中の車を徹底的に分解して調べている。現代はこのところ耐久性やエレクトロニクスを活用した先進性、デザインといった面で、急速に評価を上げつつある。しかも、性能の割に圧倒的に安い。しかも、これまで少なかったトヨタ系の部品メーカーが近年急速に使われ始めたことが、最近になって分かった。これまで、現代は自前の部品メーカーを抱え、そこからの調達が多い、といわれていた。
「系列の株買い増し、といった荒療治も考えないと」
自動車の基幹部品は、メーカーと系列が共同で開発している、といってもおかしくない。だから、「トヨタが開発費を負担してライバルを太らせているようなものだ」(トヨタ)と不快感を隠さない。なかには、「現代には売るな、と圧力をかける必要があるかもしれない。系列の株を買い増し、言うことをきかせる、といった荒療治も考えないと」と漏らすトヨタ首脳もいる。
これだけ、現代自動車にこだわるのは、理由がある。これまでトヨタの最大のライバルといえば、米ゼネラル・モーターズ(GM)だった。しかし、GMは販売不振が長引き、倒産さえうわさされる状態だ。気になる存在だったベンツやホンダもかつての元気がない。「敵はもうGMではない、現代だ」という声が社内に上がっているからだ。
ただ、部品メーカーにも言い分はある。 例えば、ホンダは系列の部品メーカーは持たず、トヨタ系のメーカーを中心に調達している。デンソーにしろ、アイシン精機にしろ、ホンダや三菱に部品を供給し、その結果全体のコストが下がり、トヨタも結果的に安い部品を手に入れられる、という構造だった。トヨタも部品メーカーに、 トヨタ以外のメーカーへの販売を奨励していた節もある。「少なくとも、日産以外にはどんどん売れ、といった時代はある」(トヨタ系部品メーカー)のも確かだ。
トヨタと系列部品会社や協力会社の綱引きは当分続きそうだ。