ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 孫正義
第3世代携帯電話への参入をめざすソフトバンクは05年9月5日、参入を計画する企業に先駆けて第1号の免許申請を行った。少なくとも3000億円、といわれる設備資金の調達が最大の問題だ。
同社の無線免許申請によると、全国に1万5 000―2万局の基地局を整備し、2006 年から順次サービスを開始、携帯電話と無線 LANのデュアル端末も投入して早期に10 00万の加入者を獲得する構えだ。
孫正義(そん・まさよし)社長は「一番乗りにこだわった」と携帯電話事業への意気込みを語った。総務省は1・7ギガヘルツ帯の携帯電話サービスで最大2社の新規参入を認める方針を打ち出し、ソフトバンクはイー・アクセスとともにその有力候補だ。
わが国の携帯電話市場も既に9000万加入に迫り、飽和状態に近づいているといわれている。それでも、ドコモ、au、ボーダフォンの3社ともかなりの利益を挙げている。競合するau やドコモに契約者が流出している最下位のボーダフォンでさえ、2004年度(2004年4月~2005年3月)の連結決算の営業利益は1576 億円にものぼる。「まだまだ携帯はもうかる事業だ」とソフトバンクは見ている。
しかし、行政当局が懸念するのは同社の業績だ。ソフトバンクの05年3月期連結決算は、営業損失254億円、最終損失59億円と4期連続の赤字。今年度は約500万加入に達した ADSL(非対称デジタル加入者線)サービスがようやく軌道に乗り、街頭でのモデム無料配布が一巡した結果、6月に5億円の単月黒字を確保し.た。ただ、利益水準は高くない。逆に相次ぐ企業買収で純有利子負債は5316 億円と1年前の4倍に膨れ上がっている。しかも、その買収企業が低迷している。
ベンダーファイナンス――。孫氏の周辺では、呪文のようにこの資金調達手法が喧伝されている。すなわち、基地局や交換機のベンダー(通信機器メーカー)が通信事業者に融資して自社製品を買い取ってもらい、その代金を通信事業者の将来の利益から回収する手法である。通信事業者は少ない元手で設備投資できる。
Iかつて米国ではシスコシステムズ、ルーセント・テクノロジーズなどのベンダーが、この手法で盛んに通信機器を売り込んだが、I Tバブルが弾けた途端、不良債権のヤマを築いた経緯がある。
総務省が携帯電話参入事業者を選定するのは年末。それまでに孫氏は、悲願成就に向け成功シナリオを描けているだろうか。